グレイス④
「勝てる」
グレイスが唐突に言葉を発した。
「えっ?」
「勝てると言ったのだ。聞こえなかったのか?これでも大きな声を出したつもりだがな」
「いや、聞こえてたよ。でも、なんでそんなことが言えるんだよ、おっさん?」
「四年間も一緒にいるんだ。お前達が強いか弱いかぐらい、私は心得ているつもりだ」
「なぐさめなんていらないよ」
「別になぐさめるつもりはない。ただ、率直な意見を述べたまでだ」
話はそこで途切れた。
王宮に到着した二人は門をくぐって、軍議の間に足を運んだ。軍議の間にはすでに、シャニスとキール、ブランカがいた。シャニスはこの間、調練をしている最中に、突然現れた反乱軍に攻撃をされて、手傷を負っていた。その際に特殊能力を使ったので乱戦から生還できた。
生きて帰るためとはいえ、「禁」を破ったことに対してシャニスは深く反省していた。
「シャニス、傷はもう大丈夫か?」
「心配いらないよ、ゴルドー。もう立って歩ける。右宰相が戻って来るまで、僕達はしっかりしないといけないから力を合わせて頑張ろう」
「しっかりするのも結構だが、邪魔にならないでくれよ、シャニス将軍。キヒヒヒヒヒ」
気色悪い笑い声を上げながら、ブランカが毒づいた。
「いい加減にしろ、ブランカ。帰って来てから、何かとシャニスに喧嘩をふっかけているが、そろそろやめにしろ。子供みたいだぞ」
キールがブランカの背中を軽く叩いてたしなめた。
「そうはいかないよ、キール左宰相。私はシャニス将軍に毒づかないと、気が済まない。キヒヒヒヒヒ」
ブランカの気色悪い声が、周囲にこだました。彼がシャニスと犬猿の仲なのも一つ目はロウマの忠実な側近だったこと。
二つ目はシャニスがロウマの右宰相就任の際に、ロウマに反発した貴族達を次々と処断したことにあった。適確な証拠を提示することはできないが、ブランカはシャニスが実行犯だというのを知っていた。
もし証拠を見つけたら即刻、国王のラジム二世の前に突き出してやるつもりである。
一方、シャニスはブランカを見るだけで斬ってやりたかった。傾きかけていた国政を元に戻してくれたからよかったが、そうでなかったら、すぐに処断するつもりである。今は殺すのを想像するので我慢することにした。
殺伐とした空気が流れていたが、しばらくするとラジム二世が姿を現した。