グレイス②
やがてレストリウス王国に来た。グレイスは、レストリウス王国で一人の男と組んでしばらく仕事をしていた。だが、男とは四年前に別れた。けんか別れだった。
ロウマと出会ったのは、グレイスが再び一人になってからだった。
ロウマは、ある日グレイスのところにやって来て、いきなり跪けと命令した。
ふざけるなと思いグレイスは剣を抜いたが、一瞬にして動けなくなった。何者かに体を押さえつけられているような感覚を味わったのである。
必死で抵抗しようとしたが無駄だった。
助けてくれ。
グレイスがようやく、振り絞って出した声がそれだった。彼はその日からロウマに仕えるようになった。
ロウマはグレイスを、自分が率いている騎兵の副官に抜擢した。
当初は周囲からの反発もあったが、グレイスはその反対意見を見事に覆してみせた。
騎兵の指揮は難しくなかった。馬と一体化すればいいだけにすぎない。いつしか四年の月日が流れていた。時の流れとは早いものだった。
「おっさん、何をしているんだ?」
「貴様か……」
グレイスは後ろに立っているゴルドーに冷ややかな返事をした。ゴルドーに対しては、いつもそうしてしまうのであった。
なぜなら、自分がロウマの副官になるのに最初に反発したのがゴルドーだったからだ。
すでに四年もたっているし、実力も見せつけたのだが、グレイスはどうしてもゴルドーを許す気にはなれなかった。だからいつも突き放したり、冷淡な態度をとっていた。
「何か用か?」
「もうすぐ王宮で軍議をやるから、おっさんも呼ぶように、キールから言われたのだよ」
「そうか。だったら行かねばならないな」
踵を返そうとしたグレイスだったが、ゴルドーがそれより早く口を開いた。
「その墓はおっさんの家族の墓か?」
「だったら、どうなんだ?」
「どうって事はないよ。ただ尋ねただけだ。聞いてまずい事だったら謝るよ」
「当たっているから、謝る必要は無い。これは妻の墓だ」
「横の小さな墓は子供か?」
「そうだ」
グレイスは頷いた。
苦い表情だった。いつもは無表情のグレイスが、子供のことで表情が変わった。よほど嫌な思い出があったのだろう。悪いことをしたと、心中でゴルドーは謝罪した。
「それにしても……おっさんにも家族がいたのだな」
「私だって一応人間だ。家族がいてもおかしくないだろう」
「そうだな。でも、もういないのだろう……」
「まあな。ところで、さっきから何が言いたいのだ?」
「おっさんも俺と一緒なのだと思っただけだよ。俺の親父は十七年前に反乱軍との戦で戦死したんだ。こういう場合、育ててくれるのは残ったお袋のはずだけど、俺を育ててくれたのは乳母や使用人なんだ。お袋は教育に一切関与しなかった。どうやら俺が特殊能力者だというのを毛嫌いしていたらしい。だから俺は世間が賛美している『家族の絆』とかいうものは知らない」
ゴルドーの母親は父のカリアナとも不仲だった。元々政略結婚だったので、愛情なんて無かったらしい。また、カリアナも戦を好む体質だったので、いつも外に出ていた。
そのためゴルドーを抱いてやることすらしなかった。ゴルドーは父母の話を古くから仕えている使用人から聞いて知った。