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第十七章 グレイス①

 その墓は、ぽつりとさびしくたたずんでいた。墓石には名前が彫られている。


 リース。


 墓の主の名前だった。


「来たぞ」


 返事をしない墓石に語りかけると、グレイスはそっと花を添えた。まるで誰かがそこにいるかのようだった。リースはグレイスの妻の名だった。彼女はグレイスが、ロウマに仕えるずっと前に結婚した女だった。


 そのころのグレイスはレストリウス王国にはおらず、西方の小国に住んでいた。


 リースが美しかったのをグレイスは、昨日のように覚えていた。容姿はもちろんであるが、心根も美しかった。お世辞ではない。これは本心だった。


 なんといっても、無口で無愛想な自分に一生懸命尽くしてくれたのだから、言葉では言い表すことができないほど感謝している。


 出会いは突然だった。リースの方から話しかけてきた。それまで顔を会わせることはあったが、グレイスは気にしていなかった。


 だが、そんな彼も接していくうちに段々と彼女のことが気になっていき、気持が愛情に変わった。


 気が付くと結婚しており、一年後には娘も生まれた。住む場所も治安がよくない西方から、東方のクルアン王国に移住した。幸せな状況が永遠に続くかと思っていたが、全てが簡単に崩壊した。


 病が突然流行したのである。前から話は聞いていたが、遠くの地だったので大丈夫だろうとグレイスは考えていた。しかし、病はあっという間にグレイス達の住んでいる土地にもやって来た。


 リースが病にかかった。すぐに医者を求めたが、近隣の医者はみんな金持ちのお抱えが多く、どいつもいくら頭を下げても相手にしてくれなかった。


 時には医者のすねに、かじりついた時もあったが、役人を呼ばれて役所に連行されるだけだった。役人に話しても、まったく相手にしてくれなかった。


 毎日途方にくれながら、グレイスは家路に着いた。リースは日々弱っていき、グレイスはなす術もないまま、衰弱していく彼女の腕を握っていた。


 死ぬなと何度も叫んだ。


 叫んで叫んで、叫びまくった。


 リースは最期にこう言った。


 笑って、と。


 不思議とグレイスは笑っていた。


 リースはゆっくりと目を閉じていた。


 途端にまぶたが力を失った。勝手に涙があふれたのである。


 泣いたのは、それが最後だった。


 その後、グレイスは泣いたことがなかった。


 残されたのはグレイスとリースとの間にできた娘だけだった。


 しかし、娘もすぐにいなくなった。


 天蓋孤独になった。毎日酒に溺れていたが、やがて酒も飽きたので旅に出ることにした。


 旅では金がすぐに底を尽きてしまうので、賞金稼ぎになる決意をした。


 旅の間、様々な犯罪者を殺して回った。

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