女の戦い⑫
なんとも温かいものだった。これからはますます寒くなるから、防寒具は必要になってくるのでちょうどよかった。だが、自分を温めてくれるのは、この防寒具としての役割ではなく、製作者の心というものに違いない。
「ありがとう。大切に使わせてもらうよ」
「大切にしなくていいわ。擦り切れるまで使ってちょうだい。その方が私は嬉しいわ」
「ならばそうさせてもらう」
二人は笑い合った。できれば、このままずっと笑っていたかったが、それも束の間だった。
「ロウマ様、実は私のもあるのです。巻いてください」
アリスだった。彼女も一度部屋に戻り、マフラーを持って来た。ナナーのと違い、ほつれた箇所はまったく無く、伸び切ってもいない。完璧な出来のマフラーだった。これなら売り物にしてもおかしくないはずだ。
「これはお前が作ったのか、アリス?」
「そうです。結構大変だったのですよ。特にこの箇所なんて……」
アリスは何事か説明をしていたが、編み物の知識が無いロウマには、わけが分からずさっぱり理解できなかった。とりあえず頷くだけで精いっぱいだった。
だが、そのマフラーからもナナーのものに負けず劣らず、気持が伝わって来ていた。アリスはさらに、ロウマにマフラーを巻くようにお願いした。
言われた通りにロウマは、ナナーのマフラーの上から、アリスのを巻いてみた。
「よく似合ってますよ」
「ありがとう。大切にするよ」
「実はロウマ様、このマフラーは一つだけではないのです」
「どういう意味だ?」
「もう一つあります。それは私専用です。つまりロウマ様とお揃いです。ほら、この通り」
どこから取り出したのかアリスは、もう一つのマフラーをロウマに見せた。
これにはナナーもしまった、という表情をしていた。その手があったか、という風に唇を噛みしめていた。
「ロウマ様、こうしているだけで、なんだか恋人同士のようです。いえ、それ以上です」
「そ、そうだな……」
ロウマがそう言ったのと同時に、身を貫くような殺気を背後から感じた。
ナナーだった。話がまた悪い方向に行きそうだった。
ロウマはやっぱり逃げた方がいいと思い動こうとしたが、それを察知した二人が素早く動いた。
「というわけで、今日は付き合ってもらうわよ」
「ロウマ様、大人しくしてください。決して食べるわけではありませんから」
「嫌だ。離せ!」
だが、ロウマの願いもむなしく散った。
ナナーとアリスはロウマを部屋に押し込んでしまった。
廊下には昏倒したシャリ―だけが、取り残されていた。