女の戦い⑪
「ところでさっき『蛇の抜け殻』や『マフラー』という単語が聞こえてきたが、一体なんだ?」
ロウマがその話題を出した途端、ナナーの顔色が急に赤くなった。
やったぞ、と彼は内心ほくそ笑んだ。
「聞いていたのね?」
「ああ。ドア越しでもよく聞こえていたからな」
「だったら見てくれないかしら。すぐに持って来るから」
ナナーが部屋に戻ってしまった。
今のうちだと悟ったロウマは方向転換しようとしたがアリスに足を踏まれた。
「痛いぞ、アリス……」
「逃げないでください、ロウマ様」
「違う。ちょっとトイレに行こうとしただけだ」
「いい加減にしないと、腕だけじゃなくて下腹部にある男の人の大事なモノも切りますよ。こうみえても、包丁さばきは得意なんですよ」
ロウマは身震いした。女だからといって、甘くみてはいけなかった。もう逃げるのは不可能だ。もはや明日の朝日が拝めるか祈るしかない。
「待たせたわね、ロウマ。これよ」
いつの間にか、ナナーが戻って来ていた。手中に青い何かを持っていた。
「確かに蛇の抜け殻に見えるかもしれないけど、初めて作ったマフラーだから受け取って」
どうやらマフラーのようである。よほど恥ずかしいのかナナーはロウマを直視できずに、それを渡した。
ロウマが受け取ると、確かに蛇の抜け殻のように伸びきっているが、マフラーに間違いなかった。所々ほつれており、修復の痕跡が激しいが、それは製作者の努力がにじみ出ている証拠である。
「私があなたに渡す初めてのプレゼントだけど、受け取ってくれるかしら?」
「…………」
「駄目?」
「いや、びっくりしただけだ。お前が私にマフラーをくれるとは予想していなかったから」
「嬉しいの?」
「もちろんだ。お前が私のために一生懸命編んでくれたのだから」
「じゃあ巻いてみて」
言われるがまま、ロウマは首に巻いてみた。