女の戦い⑩
『それで部屋に入るのか。それとも逃げるのか?』
「無論逃げる。命の方が大切だ」
『即決か……なんとまあ、男らしいのか男らしくないのか、よく分からない奴だ』
「岐路に立った時は即決だ。悩んでいては死ぬだけだ」
国を抜け出して苦悩していたのは、なんだったのだと二人は突っ込みたかった。一方ロウマは、二人の突っ込みも予想していたが無視して、さっさとこの場を逃走することにした。
「師匠、さっきから何をぶつぶつと言っているのですか?丸聞こえですよ」
シャリーがドアを開けて、廊下に姿を現した。
この時になり、ロウマは声量を下げるのを忘れていたのに気付かされた。不覚をとった、と拳で壁を叩いた。
「さては、師匠。私に何か言うつもりでしたね。ですが、言いづらいことだったので、廊下で練習をしていましたね。師匠も案外シャイですね」
「医者に診てもらえ……」
「えっ、師匠なんて言いました?小声でよく聞こえませんでした。もう一回言ってくださブッ!」
シャリーは誰かに殴られて、床に昏倒してしまった。
誰だと思って目を向けるとナナーとアリスだった。調練で使う棒が握られていた。
「これでよし。一番目障りなのが消えたわ。アリス、あなたと決着をつける時がきたわね」
「そうね。どっちがロウマ様にふさわしいか勝負ね」
二人とも、すでに寝間着に着替えていた。なんだか随分と布面積が少ない寝間着であり、肌が透けて見えていた。
嫌な予感がしたので、ロウマは一歩後ろに下がったが、二人に素早く右腕と左の義手をつかまれた。
「あら、義手をはめられたのですね、ロウマ様」
アリスが言った。
「まあな……」
「立派な義手です。片腕も素敵でしたが、両腕がある方がもっと素敵です」
「ありがとう。できれば、腕を離してくれないか」
「それは嫌です」
ロウマは、右腕を握っているナナーにも目を向けた。
「逃げようとしたでしょう」
嘘をついても見破られると思ったロウマは、首を縦に振った。
「そんなに私達といるのが嫌だったかしら?」
「別にそんなのでは……」
「じゃあ、どういう意味かしら?」
言葉に窮したロウマだった。横のアリスも自分がナナーかのようにロウマを見つめていた。その場にとんでもない緊張がはしった。一歩間違ったことを言えば、襲われるのは間違いない。
どうにかしないといけない。
その瞬間、ロウマは閃いた。