女の戦い⑧
「よくできているだろう。その義手は、ルミネ姉さんが作成したものだよ」
「ルミネが?」
ロウマがルミネに目をやると、ルミネは屈託の無い笑顔を向けた。
「ルミネ姉さんは、昔から手先が器用だから、こういうのはお手の物だ。早速だが、はめてみろよ」
「どうやって、はめるのだ?」
「姉さん、手伝ってやってくれ」
「いいよ。ロウマさん、義手を私にください」
言われるがまま、ロウマは義手をルミネに差し出した。
ルミネは義手を受け取ると、ロウマの斬られて無くなった左腕の切断面に押し当てた。一瞬、ひんやりとした感覚がロウマを襲ったが、すぐに失せた。
「はい、これでいいですよ」
ルミネが言った。
義手に目を向けると、完全に切断面にくっついていた。くっつけた痕跡する残ってなかった。
「これは……」
試しにロウマは、義手を動かしてみた。
動いた。
動いたのである。本物の腕と変わらなかった。まるで義手が切断面から生えてきたようだった。
「一体、どういう仕組みになっているんだ?」
「駄目です、ロウマさん。それは教えることができません。私だけが知っている特別な製造法ですので」
ロウマはロバートに目を向けた。
「生憎だが、俺も知らない。昔から姉さんは不思議なものを作るのが得意なんだよ。とにかく、その製造法は誰も知らない。たとえ家族であっても教えないよ」
「いいじゃない、ロバート。自分だけが知っているのも気分がいいわよ」
ロウマは苦笑した。この屋敷に来てからは色々な人々に驚かされてしまった。
温和であるが威厳に満ちた長女のライナ、ロウマに苦手意識を持たせているディナ、元気満点のイメール、ロウマの病気の進行を一時的であるが止めているレイラ、不思議な義手を与えてくれたルミネ、自分を救ってくれたロバート、使用人のピルトン。
極め付けは「勝手」に弟子入り志願をしたばかりか、「勝手」に結婚まで企んでいるシャリー。
実に面白くもあり、恐ろしくもある人達だった。こんな人達がこれから付いて来てくれるとは、自分は幸せ者だった。
「ありがとう、ルミネ」
「いえいえ、お構いなく。また体の一部を失ったら相談してください。すぐに作りますから」
「何回も切断はごめんだ」
本当にやりかねないと思いロウマは身震いした。明日はレストリウス王国に出発しなければならない。ここで過ごすのも今日が最後だった。
楽しいこともあったし、辛いこともあった。けれども、自分の人生の中では一番楽しい日々だったのかもしれない。