客人⑤
「そんなある日のこと、新入りとして来た女がいた。それがミリアン殿だった。クリスト殿は早速、ミリアン殿に挨拶代わりのスカートめくりを一発おみまいした」
「うわあ……人として最低ですね」
エレンがセイウンの方を見ながら、ぽつりと呟いた。
「なんで俺を見るの?」
尋ねたが、エレンにあっさりと無視された。
「普通の女はそこで悲鳴を上げるのだが、その日は違った。ミリアン殿は、クリスト殿の顔面に拳を一発、入れ込んだ」
「素晴らしいことです、院長。私としては拳一発どころか、骨の二、三本は折ってもよかったと思います」
エレンが、にこやかな表情で拳を握っていた。
横にいるセイウンは、ぞっとした。今度自分に同じことをしたら、そういう目にあわせるという意思を送られている感じがした。
「クリスト殿はその場に昏倒してしまい、しばらくして、起き上がったのだが突然とんでもないことを言い出したのだ」
「なんて言ったのですか、院長?」
「『ほれた』だよ、エレン」
「馬鹿を通り越して、ただのアホですね。本当に誰かとそっくりですよ」
「おい、エレン。その『誰か』って、俺のことか?」
「さあ、どうかしら。想像に任せるわ」
エレンは、そっぽを向いてしまった。
「確かに、ただのアホだ」
ゴートも言った。
「しかし、アホだが強かった。また頭領としてもよくできていた」
急に語気を変えた。クリストという存在がいかに大きかったか伝わる迫力だった。
セイウンとエレンは、一瞬だったが、別人のようなゴートの雰囲気に呑まれた。
「まあ色々紆余曲折はあったが、その後クリスト殿とミリアン殿は結婚したというわけだ。めでたし、めでたし。そして、セイウンが生まれたのだ」
「そうですか……」
なんだかあまり聞きたくない両親の話だったと、セイウンは思った。
「その後クリスト殿は負けて、ここが落城する際に、わしにお前を預けた」
「俺はそのまま、院長のもとで育った。けれど、父さんに呼ばれて、この城に来た」
「……らしいな。セングン殿から経緯は伺ったよ。人生とは分からぬものだ。まさか、息子のお前まで、ここに来るとはな」
ゴートは溜息をついた。