第十六章 女の戦い①
話が終わった後、セイウンは自室に戻ることにした。もう夕暮れになっている。部屋に戻ってやらないと、エレンが怖がっているはずだ。夜は彼女にとって魔物なのだから。
ちなみにセイウンが先ほど、レジスト達の前で述べたエレンがベッドで大人しくなるというのは嘘ではなかった。暗闇が怖いから、大人しくなるのである。可哀そうであるが、逆にあんな状態のエレンが初々しく見えてならない。
婚姻の儀を挙げてから、エレンは夜になると積極的にセイウンを求めた。今までのエレンからは考えられないことだった。今日も抱くのだろうか。いや、今日は怪我をしているから無理だ。それに毎日はきつい。
エレンを抱くのは嬉しいセイウンだが、やはり体力的な限界もある。自室に入ると、エレンはベッドに座っていた。すでに多くのろうそくに火が灯されていた。
部屋が異様なほど明るく、熱気が凄まじい。エレンはセイウンの姿を見ると、ほっとして近寄って来た。
「おかえり。もう夕飯はできているから、食べましょう」
「ああ」
頷いたセイウンは、エレンと一緒に食事を始めた。自分がいると嬉しそうなエレンは、本当に愛らしい。たとえ何発殴られたり蹴られたりしても、それが変わることはないだろう。
「どうかしたの?」
「いや、なんでもない」
「そう……ねえ、セイウン。お願いがあるのだけど、いいかしら」
「悪いが今日は怪我をしているから無理だよ」
「違うわよ。別のことよ」
「なんだよ?」
「あまり無理はしないでね」
エレンは、ぽつりと言った。
「無理しすぎると、返って大火傷を負うかもしれないわ。もしそれで命を落としたりしたら、みんなが悲しむわよ」
「確かにお前の言う通りだ。気を付けるよ」
「それに、あんたがいなくなって一番悲しむのは私よ。お願いだから、勝手にいなくなったりしないでね。一人は嫌だから」
「分かっている。俺はお前を一人にはさせないし、死ぬつもりもない。俺は自分のためにも戦っているが、お前のためにも戦っているんだ」
一瞬だけだがエレンの頬に、赤みがさした。
セイウンは、にこりと微笑んだ。
「やってみせるよ、エレン。俺は必ず争いの無い平和な世界をつくってみせるよ」
「やってみなさい。私もあんたに協力してやるから」
日が沈み辺りが闇に包まれると、二人はベッドに横になった。ろうそくの炎は全て消し去った。今日はエレンを抱かないが、彼女はその分セイウンの体に自分の体をこすりつけていた。
まるで仔猫のようだったが、それがエレンの愛情表現である。セイウンはエレンが寝付くまで頭をなでてやった。こんな風にしてあげられるのも、今だけだろう。もうすぐ本格的な戦が始まる。
多くの人々を巻き込む戦が。