不審な傷口⑪
レジストを初めとする一同はお互いの顔を見合わせて頷くと、セイウンを抱えた。
「おいおい諸君、急に抱えたりしてどうした?胴上げでもするつもりか?悪いが俺は怪我をしているから、また今度な」
「いやいや、胴下げならしてやるよ。なあ、みんな」
レジストが言うと、みんな笑顔で応じた。嫌に不気味な笑顔だったので、セイウンは不安になってきた。
「なんだよ、胴下げって?」
「胴下げとはな……貴様を窓から突き落とすことだ!」
レジストの叫び声が合図だったのか兵士達全員が窓までセイウンを運んでいった。全員、目に言い知れぬ怒りの炎が灯っていた。
「ま、待てお前達、はやまるな……少しは話をしよう!」
「さっき煮るなり、焼くなり好きにしていいと言ったのは、どこのどいつだ?」
「嫌だ。前言撤回!死にたくない!」
「安心しろ。人はいつか死ぬ運命だ。大事なのは今をどうやって生きるかだ」
「だったら俺は今を生きたい!だから下ろせ!」
「お前は十分生きたし、楽しいことをしただろう。もう死んでもいい時期だ。エレン嬢に関しては我々が面倒を見る」
「お前らにエレンの面倒を見させてたまるか!いいから下ろせ!」
しかしセイウンの叫びもむなしく、体は窓の桟まで移動していた。もはや落とされるのも時間の問題だった。
「それくらいにしておけ、お前達」
聞き覚えのある声がしたので振り向くと、セングンが立っていた。ハシュクも一緒だった。
セイウンはセングンの登場に感謝した。
「これはお疲れ様です、セングン殿」
レジストや他の兵士達がセングンに向けて一斉に敬礼をした。
どうしてこいつらは、セングンには尊敬の念があって自分には微塵も無いのだろうかと疑問に思ったセイウンだった。
「うん、お疲れ。悪いが諸君、そいつを僕にくれないか。大事な話があるんだ」
「かしこまりました、セングン殿」
あっさりと承諾したレジストだった。
「それからレジスト。サイスを呼んで来てくれ。彼に話がある」
結局、兵士達はその場で解散した。みんな不満の声をもらしながら散って行った。