不審な傷口⑩
エレンの事だった。
セイウンが残党の村に来た当初、エレンに求婚する男達が続出していたが無論エレンの「ごめんなさい」の一言とすでに既婚者であるのを知って全員散った。
ちなみに一番最初に求婚を申し込んだのがレジストだった。どこ男達も振られたら簡単に引き下がったのに、この男だけは諦めが悪かった。その後もしつこくエレンにつきまとっていた。
「いい加減にしろ」とセイウンが怒ったこともあったが、対するレジストは「離婚しろ」と再三迫った。当然セイウンはするはずがなく、レジストも諦めの悪さが増すばかりだった。
それどころかエレンに好意を抱いている独身の同志を集めて、城の地下に秘密結社まで作り上げていた。
「レジスト、俺は頭領だぞ。頭領に対して尊敬の念は無いのか?」
「黙れ、わいせつ物!今まで実力行使せずに穏便にしてやっていたが、今回こそは許さん。我らが崇拝してやまないエレン嬢をいつもひどい目に遭わせやがって!」
「俺は何もしてない!むしろ俺がひどい目に遭っている。さっきもあいつに殴られて気絶させられたのだぞ」
気絶させられる前にエレンに殴られてできた顔の痣をセイウンは指し示した。
「嘘をつくな。あの可憐なエレン嬢が暴力を振るうはずがない。貴様は彼女をどこまで侮辱する気だ!」
「お前らはあいつの本性が分かってないから、そんなことが言えるんだ!三日も一緒にいてみろ。あの女の暴力的な本性が分かるはずだ」
「聞く耳持たん」
駄目だった。この連中はエレンが一番で頭領の自分なんて、どうだっていいらしい。
セイウンは、がっくりと肩を落とした。
「ちくしょう。煮るなり、焼くなり好きにしやがれ」
「ふん。ようやく観念したか。何か言い残すことはあるか?」
「そうだな……最後だから言うが俺はエレンと寝る場合、ちゃんと場所も時間も決めている」
「どういう意味だ?」
レジストがセイウンの言ったことに喰いついた。
周囲にいる兵士達も一緒だった。
「独身貴族のお前達には分からないだろうが、時間はいつも夜の十一時ごろ。エレンが寝る場所は当然、俺の真横。あんな性格のエレンだが、強気な奴ほど、ベッドでは大人しくなるものだよ。おっとこれは失敬。つい口が滑ってしまった。また諸君の嫉妬を買いかねないよ。ハハハ」
一人で大笑いしているセイウンだった。