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不審な傷口⑧

 ゴルドーが視線を落とすと、グレイスは腰の剣に手をかけていた。どうやら、詮索されるのは嫌らしい。だからといって、剣にまで手をかけるのは異常だった。


 ゴルドーはそれでも質問を続けた。


「おっさんは前から謎だらけだった。でも、俺はあえて何も聞かなかった。聞かれたくないことは、人間誰でもあるからな。だけど今日は違う」


「どう違うのだ?」


「俺が決定的な疑問を抱いたのは、おっさんが間諜隊の支部が壊滅したのを報告したところだ」


「それがどうした?」


「間諜隊の支部の場所を知っているのは、この国では陛下と右宰相に就任した奴だけだぞ」


 切り札は言い切った。ゴルドーはグレイスが斬りかかって来ないかどうか心配だった。斬りかかっても応戦することはできるが、この男との長期戦はなるべく避けたかった。


 ゴルドーはグレイスとにらみあった。


 沈黙がしばらくの間続いた。


 だが、グレイスはいつまでたっても斬りかかって来なかった。じっとゴルドーを見つめている。やがてグレイスは溜息をついた。


「ゴルドー、どうやらお前は馬鹿ではないらしいな」


 驚いた。ゴルドーはグレイスに名前を初めて呼ばれたのである。いつもお前や貴様と呼んでいたので、ゴルドーはなんだかこそばゆかった。


「やっぱり、今日のおっさんは変だぜ」


「うるさい男だな。お前の言う通り、間諜隊の支部を知ることができるのは、陛下と右宰相だけだ」


「だからどうしておっさんが……」


「私は右宰相から間諜隊の情報をもらっていたんだ。また、私自身も時々だが間諜隊の仕事を手伝ったりすることもある。だから知っていたのだ。悪いがこれ以上は言えない」


 嘘をついているようではなかった。しかし、グレイスという男の全体像までは把握できなかった。ゴルドーは、拳を握って残念がった。


「おっさん、あんたはロウマをどう思っているんだ?」


「非常に優れた人物だと私は思っている。なんたって、この私を恐れさせた唯一の人物なのだから」


「おっさんが恐れた?」


 グレイスが話をするのは、そこまでだった。きびすを返すと、自分の部署に向かってしまった。


 自分も兵士達のところに向かわねばならない。ゴルドーも歩調を速めた。

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