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不審な傷口⑥

 だが、期待はあっさりと打ち砕かれた。


 いたのはグレイス一人だった。考えてみれば、兵卒が報告の際に出した名前はグレイスだけだった。


 もしロウマも帰って来たのなら、幕舎の外が騒がしいはずだった。


「ただ事ではないらしいな、キール」


 グレイスは挨拶も無しに二人に目を向けた。


「そうだ。シャニスの率いている軍が奇襲を受けた」


「かつて反乱軍が拠点にしていた城の付近でか?」


「なんで知っているんだ、おっさん?」


 ゴルドーが怪訝な表情で尋ねた。


 ついさっき帰還したばかりなのに、どうしてそこまで察知できるのか気になって仕方なかった。


 グレイスはゴルドーの質問にあきれ果てたのか、溜息をついた。


「馬鹿か。すでに城の周囲は野営地がいくつもできているのだぞ。そんな事も気付かなかったのか?」


「そんな事言われても、情報が入って来ないんだよ。普通、間諜隊から情報が入って来るはずだけど、ここ最近あの付近を縄張りにしている間諜隊と連絡がとれないのだよ」


「城の付近の間諜隊なら全滅した」


「なんだって!それは本当か、グレイス?」


 キールが再度確認した。仮面で表情は分からないが、声の感じから相当驚いていることは分かる。


「ああ。間諜隊の死体は見てないが、おそらく殺されたはずだ。生きている可能性はまず無いに等しいだろう」


 これで分かったことがある。


 反乱の芽が出始めたのである。反乱勢力は十七年前にジュリアス=アルバートの手によって潰された。それなのに、再び反乱が勃発するなんて悪夢である。何が不満で反乱を起こすのだ。


 どこか間違ったところでも自分達にあったのだろうか。これもロウマがいなくなったことが原因なのか。キールの頭は混乱の坩堝るつぼと化した。


「キール、しっかりしろ。今の軍事面での最高責任者はお前なんだぞ。悩んでいるひまがあるのなら、まずは行動しろ」


 キールは、はっとした。そうだった。自分はどうかしていた。こいう時だからこそ、自分がしっかりしないといけないのだ。自分は兵士達の命を預かっているのだ。


「お前の言う通りだ、グレイス。思えば私達はロウマに頼りすぎていた。彼がいなくても、しっかりしなければいけないのだ」


「ようやく気付いたか。お前らに足りないのは、自らの意思で行動することだ」


「おい、おっさん。その様子だと俺達の弱点が分かっていたみたいじゃないか。分かっていたのなら、教えてくれてもいいだろう」


「教えて分かるのなら、苦労はしない。お前は私の言うことに、素直に耳を傾けるという保証はあるのか?」


「それは……」


 おそらくいつもの口うるさい小言程度しか受け取らないだろう、とゴルドーは思った。口には出せなかった。出したらグレイスに負けたという感じがして悔しいからである。

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