不審な傷口⑤
生き残って帰って来たのは、五百のうち四百だった。全員無傷ではなかった。
最初は何が起こったのかキールもゴルドーも理解できなかった。夢でも見ているのだろうかと疑った。
幕舎では急遽、軍議が開かれた。その場にいるのは、キールとゴルドーに数人の将校だけだった。
シャニスは医務室で手当てを受けているので不在だった。グレイスは未だに北方から帰還していなかった。
「報告によると、謎の騎馬隊が現れたのは、かつて反乱軍が拠点としていた城付近であり、数は数十騎。たったそれだけに五百の軍が蹴散らされたそうだ。諸君、どう思う?」
キールが周囲をうかがったが、口を開く者はなかった。ただ置物のように黙っていた。彼らからしてみれば、当然のことだった。破られたのがシャニスだったからである。
シャニスはロウマに次いで、兵の動かし方が上手な騎士だった。その彼が、あっさりと謎の軍隊に負けたのである。全員が黙るのも無理はなかった。
「聞いた話によると、あの城付近に人が住み始めたそうだ。何か関係があるかもしれないぜ」
黙っているのもよくないので、ゴルドーが沈黙を破ってくれた。
キールは、ほっとした。
「ゴルドーの言う通りかもしれない。あの付近を縄張りにしている間諜隊と最近連絡がとれていない。城に何かあるのは間違いないだろう」
それからしばらくの間、話し合いが続いたが、何も進展が無いまま解散となった。幕舎に残ったのは、キールとゴルドーだった。
「シャニスは大丈夫かな?」
ゴルドーが、ぽつりと呟いた。
「心配無い。しばらく休めば、よくなるだろう」
「だろうな。あいつの体は俺達より丈夫だからな」
とりあえずシャニスは無事という結論に達したその時、幕舎に兵卒が一人入って来た。
「申し上げます。グレイス様が、帰還されました」
「なんだと、グレイスが?」
「おっさんが帰って来たのか?」
キールもゴルドーも幕舎の外に出た。もしかしたら、ロウマも一緒かもしれない。そんな淡い希望が脳裏にちらついた。