不審な傷口③
ハシュクは近くの椅子に座った。
「これを見てくれ」
何かと思いセングンはハシュクが差し出した物を受け取った。どうやらただの羊皮紙のようである。羊皮紙に目を落としたセングンは唸って眉をひそめた。
「何だこれは?見た感じ、人体図らしいが、あいにく僕は解剖学には興味無いのだよ」
「だろうね。僕もそう思うよ。それはセイウンの傷のスケッチだよ。よく見てくれ。特に右肩ね」
言われるがままセングンは右肩に注目した。何か描かれている。ただの円のようである。わけが分からないので、セングンは首をかしげた。
ハシュクは問題の円を指さした。
「それがセイウンの右肩に残っていた傷だよ。綺麗な円形だった。剣の傷でないのは明らかだ」
「槍じゃないのか?」
「あり得ないないね。槍なら引き抜いた際に、肉をえぐった痕がしっかりと残るはずだ。こんな綺麗な円形にはならないよ」
「じゃあ一体なんだ?」
「それが分からないから、僕も悩んでいるんだ。君なら何か知っているのじゃないかと思って尋ねに来たんだ」
「僕は武器の専門家ではない。そういうのはバルザックやデュマにしろ。彼らなら知っているはずだよ」
「そう言うだろうと思って、最初に尋ねたよ。だけど彼らも分からないと首を横に振っていたよ」
ならばお手上げだった。セングンは羊皮紙を机上に置くと、しばらくの間、瞑想した。
この世にこんな不可思議な傷を付ける武器が存在しているのだろうか。自分が知っている限りでは、見たことも聞いたこともなかった。
「セイウンはなんて言っていた?」
「彼が言うには、馬上から一人の騎士を落として、そいつに槍を突き立てたのだが、その直後自分も落馬させられたそうだ。落とされる瞬間に、そいつがセイウンに向けて指を向けたらしい」
「指を?」
指と聞いたところで、何か出て来るわけではないが、なんとなく気になって仕方ない。再び瞑想の渦中に入った。結局、何も出て来なかった。なんといっても、情報が少なすぎる。
セイウンの話からでは、結論が出しにくかった。もしかしたら指を向けた瞬間に落馬したのは、彼の気のせいかもしれない。だがそうなると、円形の傷の説明もつかなくなる。やはり円形の傷と騎士が指を向けたのは、関係があるのだろうか。