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第十五章 不審な傷口①

 兵数はすでに五百を超えていた。着々と準備は整い始めている。数は増えたが、レストリウス王国もこちらの動きに気付いているだろう。その証拠に今日は軍が一隊、城の付近をうろついていた。奇襲により追い返したが、どうせまたやって来るはずである。


 だが今のセイウンは、そんなことを考えている場合ではなかった。


「痛い……もうちょっと優しくしてくれ」


「まったく情けない男だな。しっかりしたまえ、おちびちゃん。おっと失礼、セイウン頭領」


「けがをしてなかったら、確実にお前を絞め殺していたぞ、ハシュク。痛い、痛い!ごめんなさい、ハシュク先生!今のは冗談です。だから、傷口を押えないでください!」


「治療をしてもらっている医者に対する態度とは思えないな。敬意を払いたまえ」


「払います!払いますから、傷口を押さえるのをやめてください!」


 医務室にセイウンの絶叫がこだました。


 しかし、ハシュクはやめるどころか、ますます強く押さえつけた。


「先生、包帯を持ってまいりました。ですので、セイウンさんの治療の続きを……」


「待ちたまえ、ロビンズ。もう少し僕の好きにさせてくれないか。ちょうどいい悲鳴が僕の耳に入って来ている。実は今、人の声帯についての研究を行っているのだ。そのためには様々な実験が必要だ。だから、セイウンにはよき実験台となってもらう」


 こうなったハシュクは、誰にも止めることができないのを弟子のロビンズは知っていた。弟子になってまだ日は浅いが、性格は把握していた。医者としての腕は悪くないが、どうも患者を自分の実験台あそびどうぐにする癖があった。


 セイウンが悲愴な表情でロビンズに助けを求めていたが、ロビンズは首を横に振って無理の意思表示を示していた。


「ちょっと、何をしているのよ!」


 大声がしたので、ロビンズが後ろを振り向くとエレンが立っていた。


 ハシュクも彼女の存在に気付いたようである。


「エレン、ここに何か用かい?この間の胸を大きくする薬なら駄目だよ。あれは失敗作だったからね。現在、新作の開発途中だ」


「いらないわよ、そんなもの!セイウンの傷口を押さえるのをやめなさいよ!」


「これは失礼。僕としたことが悪い癖が出てしまったようだ。君の愛するひとを傷付けてしまったよ」


 途端にエレンは顔が真っ赤になってしまいうつむいた。そんなのではないと言い返したいのだが、なぜか返すことができなかった。


 ハシュクはエレンを見て、にやにやしていた。


 エレンは純粋なので、免疫の無いことを言えばイチコロだと知っていたのである。

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