苦しき日々⑨
「すまないが、反乱軍の拠点になっていた城を見に行ってもいいか?」
「それは構いませんがどうかしましたか、シャニス将軍?」
「気になることがあってな。少し寄り道をさせてくれ。臨時の手当てはしっかりと出してやる」
「分かりました。それを聞けば、兵士達も納得するはずです」
「迷惑をかけて、すまない」
「いつものシャニス将軍に戻られましたね。それでこそ、将軍です」
副官の言ったことにシャニスは苦笑した。
ひゅっ!
不意に何かがシャニスの頬を横切った。どさりと地面に落ちる音も耳に入った。
シャニスが目を向けると、副官が落馬していた。矢が胸を貫いており、すでにこと切れている。
さっき横切ったのは、この矢だったのだとシャニスは確信した。
シャニスは、背筋がぞっとした。
馬蹄の音が聞こえてきたのはその時だった。
今度は前方に目を向けると、馬群が迫って来ていた。数はそんなにないが、勢いがある。
こっちは歩兵である。あの速度で突っ込まれたら、ひとたまりもない。
撤退と叫ぼうとしたが、すでに遅かった。
一瞬にして謎の馬群と衝突していた。
兵士達が次々と剣で斬られ、槍で突かれて斃れた。飛んでくる矢の標的になる者もいた。
敵は考える暇すら与える気は無いようだ。
ならば逃げるのみだった。
「野営地まで逃げろ!戦うな!とにかく逃げろ!」
やみくもに叫んだが、そうしている間にも犠牲者は増えるばかりだった。シャニスの眼前に一頭の白馬が現れた。
見事な白馬だった。こんな状況だというのに、そのようなことを感じる自分はどうかしているのだろうか。いや、それだけ感覚が研ぎ澄まされているのだ。
白馬に乗っている男が、持っている槍をシャニスに向けた。男は白銀白甲の鎧に身を固めており、槍も白銀だった。
白馬と相性がよかった。気が付くと白馬が、いや、槍が迫っていた。
シャニスは急いで抜剣したが、剣は槍に弾かれ綺麗な弧を描いて宙を舞っていた。バランスを崩したシャニスは、馬上から転落した。背中を嫌というほど地面に打ち付けた。唸っている場合ではない。逃げないといけなかった。
起き上がろうとしたシャニスだったが遅かった。男の槍がすでに自分の胸を狙っていた。
槍がシャニスの胸を貫いた。
にぶい音が、耳ではなく体中に響き渡った。
シャニスはうめき声を上げた。突かれた瞬間、その場にいない幼なじみの顔が頭によぎった。