客人③
「聞いてくれよ、セングン。エレンが俺の顔に石をぶつけたばかりか殴ったり、蹴ったりするんだ。結婚して間もないというのに、もう家庭内暴力が始まったよ。助けてくれ!」
「エレン、今回は何をされたんだ?」
セイウンの意見を完全に無視して、セングンはエレンに尋ねた。
「スカートをめくられたのよ」
「さぞかし、つらい思いをしただろう。こいつのした事は女性を冒涜している。もうちょっと殴ってもいいぞ。できれば正体が無くなってもいい」
「セングン、お前は一人の話だけで何もかも決めてしまうのか。最低だぞ!」
「うるさいな。お前は黙ってろ。実際にお前が悪いのだから、適切な判断を下したのだ。それにお前が暴力を振るわれるなんて、今に始まったことではないだろう」
「ちくしょう!親友に裏切られるとは思わなかった。こうなったら、死んでやる。死んで父さんみたいに化けて出てやる!」
「自殺するのは構わないが、その前に客に会え。お前に会いたがっている人がいるぞ」
客と聞いてセイウンは、大げさな演技をやめた。客なんて言われても、セイウンにはさっぱり見当がつかなかった。
自慢ではないが、セイウンは知り合いが多い方ではない。クルアン王国にいた時も、本当に信用できる人物でないと、付き合わなかった。そんな自分に会いたいという客がいるなんて珍しかった。
セングンに促されるまま、セイウンはその人物が待つ部屋まで案内された。
エレンも後ろから付いて来た。
ドアを開けると、視界に入って来たのは椅子に座っている老人だった。外見からして、もう七十を超えてそうな人物だが、目から鋭い光を放っており、ただ者ではないのは確かだった。
『院長』
セイウンとエレンは一緒に声を上げた。目の前にいる人物は、二人にとって忘れることができない存在だった。
幼い日から自分達を実の子供のように育て、時には厳しく、時には優しかった孤児院の院長のゴートだった。
「久し振りだな、二人とも。元気にしておったか?」
ゴートはしわがれた声で、セイウンとエレンに話しかけた。声を聞くのは、セイウンもエレンも孤児院を出て以来であり懐かしかった。
「院長、どうしてここに?」
セイウンが尋ねた。
「そちらのセングン殿から手紙をもらい、お前の所在が分かったので、たまには顔でも見ようと思って来たのだ。見たところ背はほとんど伸びてないようだな、セイウン」
「余計なお世話ですよ」
ゴートは声を上げて笑った。エレンもセングンもつられて笑っていた。
セイウン一人が面白くない顔をしていた。幼い時からあまり身長が高くないセイウンは、この話題だけは敏感であり、彼の前で背丈の話をするのは禁則だった。