苦しき日々⑤
「ロウマ、もう離れない。いいえ、私が離さないわ」
ナナーの真っ直ぐな瞳は、ずっとロウマを見つめていた。
ロウマは、胸が高鳴った。やはりいつ見ても美しかった。自分はこの美しさに魅かれたのだが、今日は特に美しかった。
「愛しているぞ、ナナー」
「私もよ、ロウマ」
ロウマは、そっとナナーの唇に自身の唇を重ねた。柔らかい感触がいつまでも続いている。このまま時間が止まっていればいいのに、とロウマは思った。
ナナーは、にこりと微笑んだ。
今のロウマには十分な薬だった。
『よかったじゃないか、兄弟。これでやっと、まともな道を進めるな』
『やれやれ。僕もほっとした。僕達は邪魔みたいだから失礼するよ』
ありがとう。
ロウマは心中でラトクリフとベサリウスに感謝した。
***
翌日、ロウマとナナーは廊下に出た。ロウマはナナーに支えられながら歩いていた。お互いもう離れたくないし、離すつもりはなかった。今はもう少しでいいから、繋がっていたかった。
居間に入ると、ロバート達はすでに集まっていた。
「終わったか、ロウマ?」
「ああ。ロバート、私はレストリウス王国に帰るよ」
「そうか。帰る気になったか」
「ここで過ごした日々は、私にとって素晴らしいものだった。忘れることはできないよ」
「ロウマ、俺もお前と出会えてよかった。世の中には、面白い奴がいるのを学んだよ」
「面白い奴か……私は面白くないよ」
ロウマは苦笑した。