苦しき日々②
九歳の時にロウマはナナーと婚約した。彼女と初めて顔を会わせた途端、ロウマは目を見張った。父のジュリアスと同じで、自分を信頼していない表情だった。とうとう外でも、こんな屈辱にまみれなければいけなくなった。
ロウマは空しさが込み上げてきたが、嫌なら信頼してもらえばいいだけだった。
その日から自分を信頼してもらおうとナナーに積極的になった。直接会いに行くこともしばしばあった。しかし、彼女がロウマを信頼することはなく、逆に毛嫌いの度合いが増した。
十二歳の時に、最大の屈辱を味わった。友達のキールに裏切られたのである。ロウマの心中に、くさびのようなものが打ち込まれた。人には信頼なんてものは無く、人は裏切ってこそ人なのだと。
同時にラトクリフとベサリウスが誕生した。
ここでロウマは信頼を求めるのもやめた。
ジュリアスがロウマにむちで張るのも無くなった。おそらく、ロウマの異常な変化に気付いたのだろう。
だが、ロウマはそれでもしっかりと「禁」を守り続けた。
やがてジュリアスが亡くなると、ロウマはジュリアスが残した日記から自分の能力を知った。
その後ロウマは右宰相に就任した。
就任早々、ロウマはある事を実行した。
自分と同じ特殊能力者に、「禁」をかけたのであった。かけられたのはシャニスとキール、ゴルドーだった。
三人とも快く承諾してくれた。
シャニスとゴルドーは、能力が普段の生活に必要ないと思っていたからである。キールが承諾したのは意外だった。反発する可能性が高いと読んでいたのである。
けれども考えてみれば、キールは昔の裏切りを悔やんでいたのかもしれない。
だから承諾したのだろう。
三人ともロウマの能力については知らない。ロウマ自身話したくなかったし、三人とも格別知ろうともしなかった。
ロウマの特殊能力との縁切り生活はずっと続いた。
先ほどハイドンと戦うまでは。
***
話し終えたロウマは、一息ついた。
彼が特殊能力者だということを知ってもナナーは驚く素振りを見せなかった。むしろ、納得していた。ロウマが普通の人と違うのは前から勘づいていた。話を聞くと、彼が今まで自分に特殊能力者だというのを打ち明けることができなかったのも頷ける。