第十四章 苦しき日々①
ロウマ=アルバートの父のジュリアスは、優秀な人物だった。軍事、政事の両面で活躍しており、民衆から官僚に至るまで彼に心服していた。レストリウス王国の前王もジュリアスには、絶対の信頼を置いていた。何事においても心配が無いはずだったジュリアスだが、たった一つだけ悩みの種があった。
息子のロウマだった。
かつてこの世を恐怖に陥れた殺戮王の能力を持って生まれたのである。特殊能力を持って生まれたのはよかったが、よりによって殺戮王の能力とは思いもよらなかった。成長するにつれてロウマは必ず能力を使用するはずである。国のために使用すればよいが、己の利益だけのために使用されると困った。
そうなるとレストリウス王国は混乱するに違いないし、下手をすれば大昔のように大戦争にも繋がりかねなかった。
そこで能力を使わせないために「禁」をかけたのである。
ジュリアスは毎日ロウマに対して厳しく当たった。少しでも能力を使うような素振りを見せたら、むちで張り倒した。
当初は少し張る程度だったが、いつの間にか、虐待に近い状態になっていた。時には能力を使ってもないのに、使ったと言いがかりをつけて張り倒した。
武術や学問をやらせたのも能力への関心を喪失させるためだった。
ロウマの母は、ジュリアスからひどい虐待を受けているロウマを助けようともしなかった。従来、気の弱い性格だったので、夫のジュリアスに何も言えなかったのだ。
ロウマは何も分からず、ただ泣くだけだった。弟は何もされていないのに、自分だけどうして毎日、理不尽な暴行を受けなければならないのだろうかと悩んだ。
気が付けば、屋敷の中に信頼を求めず外に信頼を求めていた。
外は自由だった。近くに住んでいるシャニスやキール、ゴルドーと親しくなり、彼らから絶対的な信頼を得た。ロウマにとって、これほど嬉しいものはなかった。
だが、屋敷に帰るのは辛かった。屋敷に帰れば鬼のような父と顔を合わせなければならない。ジュリアスはロウマに対して常に、嫌なものを見るかのような表情をしていた。自分が何をしたというのだとロウマは心中で憤った。
この男は父ではない。
ただの立っている人だ。
いつしかロウマの頭には、そんな考えが出来上がっていた。