殺戮王⑩
しばらくするとピルトンは、はっとした。
「ピルトン、何か分かったの?」
ルミネが尋ねた。
「はい。実は先ほどロバート様と死体の処理をしていた時に気付いたのですが、ロウマ殿が殺した連中の表情が、この書物に記されているように苦悶や恐怖といった表情だったのです。私もあんな死体は生まれて初めて見ました」
「ロバート、どういうことなの?」
「ディナ姉さん、俺はさっき死体を片付けながら、ロウマが戦っていた場所を観察していたんだ」
「それでどうだった?」
「地面が二か所も抉れていたよ。工具を使ったわけでもないのに……」
その場にいた全員が、静まり返った。考えられることは、ただ一つしかなかった。
ロウマ=アルバートは特殊能力者。一月以上一緒に過ごしているハルバートン家の人々にとっても、驚くべきことことだった。きっと彼らの中では生涯忘れることのできないことだろう。
沈黙を破ったのは、レイラだった。
「つまり、ロウマさんは殺戮王と同じ能力を持っている可能性があるのかしら?」
「たぶん……」
頷いたロバートは、書物に手を伸ばすと別のページを開いてみせた。
・特殊能力
特殊能力は、ある特定の人間が持つ不可思議な能力である。能力を持つ人々を特殊能力者と呼ぶ。
特殊能力者には二種類あり、生まれながら能力を持っている者と能力者から能力を与えられた者がいる。
後者を異能者と呼ぶ。基本、特殊能力は同じ能力は無いが、まれに過去に存在していた能力を持って生まれて来る者もいる。
「間違いないわね」
イメールが、ぽつりと呟いた。
ロバートはアリスに目を向けた。
「アリス、君はロウマが特殊能力を持っているのを知っていたか?」
「いいえ、私はロウマ様からそのような話を一度も聞かされていません」
「そうか……」
おそらくロウマはアリスに余計な心配をかけないようにしたかったのだろう。だとしたら、ナナーも知らないはずである。もしかしたら、誰にも知られたくなかったのかもしれない。能力からすれば当然かもしれない、とロバートは思った。