殺戮王⑨
「ロバート、書庫で何をしていたの?」
「ごめん、ルミネ姉さん。ちょっと気になることがあったから……」
ロバートが机上に置いたのは、一冊の書物だった。随分と年期が入ったものだった。あちこち変色しており題名も読みづらかったが、どうやら『古記』と読むようである。
「何これ?」
イメールが間の抜けた声を上げた。
「簡単に説明すると、歴史が記されている書物だよ。中には胡散臭い記述もあるけどね。俺はこの中の一か所に注目したんだよ」
ロバートは目当てのページをめくって一同に見せた。
・殺戮王
かつて、殺戮王という者がいた。記録はほとんど残っていないため、名は分からない。呼び名の通り、殺戮を欲しいままにして人々を恐怖に陥れた王だった。彼は特殊能力者である。
能力は「殺戮」。殺戮することで、力を増大させる極めて異質なものだった。圧倒的な力を誇り、人を一度に十人は殺戮する。
殺戮された者は、恐怖と苦悶に満ちた表情になっており、見るに耐えられない。彼のために自国や近隣の王国が苦しめられた。
事態を見かねた大小様々な王国が連合して、殺戮王に立ち向かった。多くの尊い命が戦場に散ったが、やがて悪は滅びていく。殺戮王は連合軍の前に敗北して、その帰途、落馬して命を落とした。彼の王国が滅んだのは、それから半年後のことだった。
「これがどうかしたの?」
シャリーは首をかしげた。他の姉妹も一緒だった。
ロバートが、なぜこのようなものを持ち出して来たのか、いまひとつ理解できなかった。
ちょうどピルトンが人数分の紅茶のカップを載せて戻って来た。
「紅茶をお持ちしました」
「ちょうどよかった。ピルトン、これに目を通してくれ」
ロバートが差し出した書物に言われるがまま、ピルトンは目を向けた。