殺戮王⑦
おそらくもう駄目だろう。こんな異民族の土地で朽ち果てるとは思わなかった。ハイドンの脳裏に、バルザックの姿がよぎった。
面白い人だった。奴隷の自分を初めて友達と言ってくれた。再会した時、顔には出さなかったが、どんなに嬉しかったことか。どうしても彼に恩返しをしたかったのでロウマの暗殺を行うことにしたが、どうも果たせないらしい。
これは無理だ。自分は異能者だから勝てるはずと、たかをくくっていたが、相手がさらに上をいく能力を持っていたとは、夢にも思わなかった。
ロウマのリオン=ルワがハイドンに向けられた。
能力を使って反撃しようとは考えなかった。なんだか馬鹿らしかった。ロウマの能力に比べれば、自分の能力なんて虫けらだった。
「終わりだ」
ロウマが冷たい一言を放った。
「ロウマ!」
遠くから自分の名前を呼んでいる。
ロウマは声の主が誰か分かったが、だからといって、ハイドンを殺すのをやめるつもりはなかった。むしろいい機会だった。これで自分に諦めをつけてくれるかもしれなかった。
ロウマはリオン=ルワをゆっくりと動かした。
突如、腕と背中に痛みがはしった。何が起こったのか分からずに、ロウマは態勢を崩した。
ハイドンはそれを見逃さなかった。再び剣を握りなおすとロウマに突進した。
一瞬の事だった。ハイドンの剣はロウマの胸を貫いていた。
だが、ハイドンは舌打ちをしていた。
貫いたのは右胸だった。
「二度も剣難の相は出ませんね」
それだけ言うと、ハイドンはロウマの胸から剣も抜かずに去って行った。実に素早い動きである。きっと獣でもない限り追いつけないはずだ、とロウマは思った。
ハイドンがいなくなると、ロウマは地面に崩れた。
腕に矢が刺さっていた。先ほどの痛みの正体はこれのようだ。ということは、背中にも同じものがあるはずである。誰が放ったのか知らないが余計な真似をしてくれた。
ロバートが駆け寄った。手に弓を持っているところから、矢を射たのは彼のようだ。
「何もかも失ってよかったのか?」
ロバートが叱責の混じった声で語りかけた。
「それでもいい……」
ロウマはゆっくりと答えた。
雨の勢いがさらに増した。冷たい雨だとロバートは感じた。
***
屋敷に戻ると、負傷した者の手当てだった。庭で戦っていたロバート達は軽傷だったので、すぐに治療は終わった。