殺戮王⑥
シャリー以上に動揺していたのは、ナナーとアリスだった。もしかしたらロウマは、自分達を守るために外に出たのではないだろうか。彼の性格ならばやりかねないことだった。だとしたら、何かあったら自分達のせいである。
ナナーとアリスは震えが止まらなかった。
「二人とも気持をしっかり持ちなさい。震えていたところで、何も始まりません。あなた達が今するべきことは、ロウマさんが無事だというのを信じることです」
ナナーとアリスの動揺に終止符を打つため、ライナが一喝した。さすが長女だった。言うのは簡単だが、聞く者をその気にさせてしまう力があった。
二人ともライナのおかげで我に返った。
「すみません。アリス、こんな時だからこそ、私達がしっかりしないといけないわ」
「ええ、その通りだわ」
「その意気です、二人とも」
「ライナ姉さん、とにかくロウマを捜そう。手分けした方がいいかもしれない」
ロバートが提案した瞬間だった。地を揺さぶるような音が鳴り響いた。
いや、微かであるが地面も揺れていた。
音源は裏庭からだった。
***
これは夢なのだろうか。
それとも現実なのか。
たった一撃で三人が吹き飛ばされた。全員宙を舞って地面に墜落した。
おそらく即死だろう。
ハイドンは後ずさった。
怖いと感じたのは奴隷のころ以来だった。あのころは、主人のむちが怖くて怯えていた。しかし、それも闇商人になった途端に忘れた。以来、自分を恐怖に陥れいるものは無いと思っていた。
だが、ここにいた。
目の前に立っている男、ロウマ=アルバートだった。
ロウマはまたリオン=ルワを振った。再び仲間が吹き飛ばされた。
さらにもう一撃。気が付くと、周囲にはハイドンを含めて三人しか残っていなかった。
「見るのも嫌な力だな。あまりにも人が死にすぎる」
「何だ、お前の能力は……」
ハイドンはすでに敬語ではなかった。それだけ取り乱していたのである。
ロウマは虚ろな目でハイドンを見据えた。
「大したものではない。私の力は身体能力が異常に上がるだけだ。説明はもう十分だろう」
ロウマは一歩、また一歩ハイドンに近寄った。