第二章 客人①
手に力を込めた。冷たい感覚が手の中に生まれる。手中には、小さな風が誕生していた。
セイウン=アドゥールは生まれたての風を放った。風はうねりながら、地面に突き刺してある槍に向かった。
鈍い音がした。風が当たった槍は、見事に二つに折れた。
セイウンは一息ついた。悪くない。最近はこうして風を操れるようになってきた。だが、今日はここまでにしておこう。
乱発はするなと亡霊になって現れた父は去り際に言い残した。特殊能力の乱発は命を縮めるらしい。
どういう意味なのか理解できなかったが、言いつけであるから守っておくことにした。
「セイウン、また練習?」
声がしたので振り向くと、エレンが立っていた。先日、婚姻の儀を終えて晴れて夫婦となったのだが、セイウンはどうもその気がしなかった。彼女のことをまだ、幼なじみと見てしまう。
きっとエレンも一緒なのかもしれない。態度から、そんな感じがするのであった。
「練習もほどほどにしなさいよ、セイウン。乱発は命を縮めてしまう可能性だってあるのだから。お義父様だって言っていたでしょう」
「お義父様?俺の父さんのことか?」
「当たり前でしょう。結婚したのだから、あんたの父さんは私のお義父様に当たるのよ。そんなのも分からないの?」
「いや、なんとなく分かるけど、お義父様か……お前らしくないな」
「悪かったわね。私はどうせ粗野な女ですから、上品な言葉づかいは似合いませんよ」
エレンはいじけて地面に座りこんでしまった。
セイウンは少々なごんだ。こんな風に時折、かわいげな姿を見せたりするところもあるから、自分はエレンにほれたのかもしれない。
セイウンはしばらくの間、エレンを観賞した。
じろじろ見られるのが恥ずかしいのか、エレンは顔を背けてしまった。
その時、セイウンの頭に、悪知恵が閃いた。ただ観賞してなごむの悪くないが、ここはいつも通り、からかうのも悪くなかった。
「エレン、頼みがあるのだけど、向こうに行ってくれないか」
「あんたの頼みはろくなことがないから嫌よ」
「そこをなんとか頼むよ」
何度も頭を下げられると、さすがのエレンも承諾せざるを得なかった。