和解⑥
ナナーの嗚咽が、ロウマの耳にどんどん入っていく。聞いているロウマの胸が熱くなった。
彼女が自分に謝罪をしたのは初めてだった。形式的なものではなく、本心からの謝罪だった。
ロウマは自分の体にナナーを抱き寄せた。彼女の甘い芳香が鼻腔をくすぐった。
「もういいんだ、ナナー。何もかも水に流そう。私もこの間の事を謝りたい。怒鳴ったりしてすまなかった。お前の来訪が本心からとは、思えなかったのだ。許してくれ……」
ナナーも抱きしめ返した。お互い離すつもりはなかった。
しばらくすると、ナナーは泣き止んだ。まだ涙が、目の端に残っていたので、ロウマはそれを指でぬぐってやった。
「ごめんなさい」
「謝るものはない」
「ロウマ、お願いがあるの。私ともう一度……」
「聞きたくない」
「まだ全部言ってないわ」
ナナーは口を尖らせていた。
しかし、ロウマは分かっていた。彼女はまた自分と婚約者の関係に戻そうとしている。確かにやり直せるものなら、やり直したかった。
だが、できるはずがない。
ロウマが気にしているのは、やはり病気である。
肺の病は治らない。
遅かれ早かれ死ぬ。
今はレイラの薬で命を繋いでいるが、それもいつまで持つか分からない。ナナーには自分とは違い先がある。もっといい男と幸せになってもらいたい。
「ナナー、私のことは諦めろ。別の人と一緒になれ」
「嫌だ。もう離れない。あなたがレストリウス王国に戻るのなら一緒に戻るし、ここに残るのならずっといるわ」
「私といても、道を誤ってしまうだけだ」
「だったら、また元に戻ればいいのよ」
全て切り返されてしまう。ロウマは溜息をついた。意外にも彼女は頑固なのかもしれない。
「好きにしろ」
「うん」
「しかし、お前も気付くはずだ。私が普通ではないことに。その時は遠慮なく捨てろ」
「もうしないわよ」
ナナーは鋭い視線でロウマを見つめた。ロウマがあまりにも卑屈になっているので怒ったようだった。