第十二章 和解①
室内にいる人物は二人。
ロウマとレイラだった。
ロウマはレイラが語ることに対して納得するように頷いていた。
「そうか……やはり、治らないのか」
「ええ。肺の病は私の薬でも難しいのです。あなたの場合、あくまでも進行を遅らせているにすぎません」
「つまり、いずれは病に負けてしまうと……」
「そうです。薬ができれば、助かるかもしれませんが、現時点では見込みはゼロです。申し訳ありません。私の力が足りないばかりに……」
「いや、あなたは見ず知らずの私に十分すぎるほどの事をしてくれました。レストリウス王国を出た当初は、歩くこともきつかったのに、今はそれが微塵も無い。これもあなたの……いや、ハルバートン家の人々のおかげだ」
ロウマは、にこりと笑みを浮かべた。
笑みと言っても人並みではなく、唇を微かに動かしたにすぎないが、レイラには十分な笑みに見えた。レイラはロウマが自分の運命を受け入れたのだと理解した。
しばらくすると、ロウマはレイラの部屋から退出した。
「ロウマ」
声がしたので振り向くと、ナナーだった。彼女とアリスはいまだに、ハルバートン家の屋敷に残っている。ロウマがレストリウス王国に帰還するまで、自分達まだ帰るつもりはないらしい。
ロウマはナナーに近寄ると、右手でナナーの左手を握った。
この間のロバートとの決闘でロウマは左手を腕ごと落とされたので、残った右手しか使えなくなっていた。
「少し散歩しないか」
ロウマが提案した。
「ええ、いいわよ」
「決まりだな」
二人は手をつないだまま、屋敷から出て行った。
***
ロウマとナナーが出て行った後、物陰から姿を現した人達がいた。
ハルバートン家の長女のライナと三女のイメール、五女のシャリー、六女のルミネ、そしてロバートだった。
「あれは勝てないよ、姉貴」
ロバートだった。
「そんなことないわよ。私だってまだまだ、勝てる要素は持っているわよ」
「どこに?」
「どこだっていいでしょう!大体、あの女は師匠の元婚約者でしょう」
「そのようね」
ルミネが笑いをこらえていた。