語り馬⑪
「でも、セイウンさん。セングンさんの言っていることは確かです。実際にパクト山は神域と呼ばれて昔から恐れられています」
「ロビンズ、その話はいつからあった?」
「俺がもの心ついた時には、すでにあったと思いますけど」
「だろうね」
セイウンが意味深な発言をしたので、側にいたエレンは首をかしげた。
「セイウン、何か隠していない?」
「まあね。でも隠しても仕方がないから、そろそろ言おうと思っていたところだ」
「何を?」
「パクト山が神域という話は嘘だよ」
セイウンの発言に一同は、呆気にとられた。
セングンさえも、呆然としてしまっている。
バルザックが前に進み出た。
「嘘とはどういう意味ですか、セイウン殿?できれば詳しく説明してくれませんか」
「俺も二週間前に、残党の村で村長のサイスから初めて聞かされたばかりなんだ。要するに、あの話はサイス達が流した噂話ということだ」
十七年前にレストリウス王国に敗北した反乱軍は、密かに村を作って身を隠したが、問題は余った武器や軍資金だった。持ち続けていれば、どこからか必ず情報が漏えいするはずである。
だから、隠すしかなかった。ならば、どこに隠すべきか。
考えた末に思いついた場所がパクト山だった。パクト山は昔から、人があまり住んでいないので隠すのに向いていた。
しかし、ただ隠すだけでは、いずれ通りかかった人物に見つけられる可能性もある。そこで試行錯誤というほどでもないが、パクト山周辺が神域であり、近寄った者は天罰が下るという話を考えた。
サイス達も成功するか自信は無かったらしいが、思った以上に人々が信じてくれたので、数年でパクト山周辺から人は住まなくなった。
「……というわけでした。俺からの話は以上」
「なるほど。人を遠ざけるために噂を流すか……考えてみれば、軍ではよくやっていますね」
バルザックは感心していた。
「セングン、これで天罰を怖がることなく、要塞を作る計画を進めることができるな」
笑いながらセイウンは、セングンの肩に手を置いた。