語り馬④
セイウンは楽しそうだった。
「やっぱり英雄たる者は、立派な武器に甲冑、そして立派な馬。これぐらい揃えておくべきだよ」
「はいはい、分かりました。あんたが立派な英雄だってことは、よく分かりました」
適当な返事でエレンは受け流した。
「いや、待てよ。まだ英雄として必要なものを手に入れてなかったな」
「何よ?」
「それは……ハーレムだよ」
「…………」
「英雄色を好むという言葉があるから、やっぱりハーレムは当然のこと。それなのに、俺の側にいるのは、外面だけよくて、胸は鉄板のように硬い暴力女が一名。うーん……これってある意味不公平だよね」
セイウンは腕を組んで深く考え込んでいた。
「セイウン、新しく手に入れた馬はどこにいる?」
「唐突だな、セングン。厩舎で休ませているよ」
「ならば、僕はちょっと見物に行ってくる。部屋にこもってばかりでは、体に悪いからな」
「セングン、俺も行こう。その馬を是非とも拝見したい」
二人はセイウンの前から足早に立ち去った。さっきのセリフがなぜか棒読みだったのは、気になるが理由は後で聞くことにしたセイウンだった。
「そんなに急がなくても、馬は逃げないよ。せっかちだな、二人とも。エレン、俺達も行こうぜ」
振り向いたセイウンだったが、一瞬で凍りついた。
エレンの顔面は、ひきつっていた。背後からは言い知れぬ殺気までただよわせていた。セングンとバルザックが、足早に立ち去った理由はこれだと理解した。
これなら逃げるはずである。ところで自分は何かまずいことでも言ったのだろうか。どこで道を踏み外したのだろうか。考えたが、とうとう答えは見つからなかった。
「エレン、人間は生きていれば、必ずいいことがあるはずだ。だから、何があったか分からないが気落ちするな」
セイウンは、エレンの肩に優しく手を置いた。
「あんたには、これが気落ちに見えるの?怒っているのよ!」
しばらく城内に悲鳴がこだました。
城内の兵士達は、セイウンの悲鳴をずっと聞き流していた。