語り馬③
「残党の村で何かつかめたか、セイウン?」
本当は説教の一つや二つでもしてやろうと考えていたセングンだったが、セイウンの顔を見た途端、その気もどこかに吹き飛んでしまった。本当に不思議な男だとセングンは苦笑した。
「セングン、俺は村の奴らと話したよ。父さんや母さんのことも聞いた」
「それでどうだった?」
「驚かされるだけだった。みんな死んだ父さんや母さんを恨んでいることもなく、誇りに思いながら生きていた」
「お前は父親のようになりたいか?」
「ああ、なりたい。だが、それだけでは駄目だ」
「どうしてだ?」
「父さんを目指すだけでは、反乱は失敗に終わるはずだ。俺は父さんを超える」
「……そうか」
そうこなくては面白くなかった。ただ親の事績を真似するだけでは、立派な男とは言えない。大事なことは親がやったことから何を学び取って、どういうことに繋げるかである。
「ところで、セイウン殿。調練は向こうでやっていましたか?」
バルザックが横から口を挟んだ。
邪魔するなとセングンは舌打ちした。
「聞いてよ、バルザック。セイウンは調練が下手だったのよ」
エレンだった。声の様子からあきれているようだった。
「下手?セイウン殿がですか?まさか……」
「本当よ。私より下手だったのよ。もう笑ってしまうわ」
「うるさい、エレン!今は上手になったのだから、いいだろう」
顔を真っ赤にしながら、セイウンが吠えた。その姿は、まるで子供のようだった。
「そうね。確かに前に比べれば上手ね。何もかも、いい馬が手に入ったおかげよね」
「馬だと?」
「そうよ、セングン。セイウンは、いい馬が無いから、調練が上手にできないのだってわがままを言うものだから、村の人が上等な白馬をくれたのよ。すると、あら不思議。本当に調練が上手になったのよ」
「なんて馬鹿げた話だ……」
あきれ果てたセングンは、口をぽかんと開けた状態になってしまった。