語り馬②
調練程度しかない。いつかこの事を突かれるのではと予測していたが、こんなに早くやって来るとは思わなかった。
「何か勘違いしているな、バルザック。僕が臆病者と思っているのか?」
「ああ、臆病者だな。セイウン殿に反乱をそそのかしておきながら、自分はほとんど事務仕事ばかり。そんなものは後にしろ」
「分かってないな、お前は。何事にも準備がいる。お前はクルアン王国にいた時に、準備も無しに戦に赴いていたのか?」
「準備は十分整った。最後の準備なら、セイウン殿が帰るのを待つだけだ」
もう何を言っても無駄だった。バルザックは、とにかく戦いたいようだ。ならば、彼の好きにさせるのもいいかもしれない。
好きに暴れて蹴散らされるがいい。バルザックは、ロウマがいなくなったことで、有頂天になっているのだろう。
確かにロウマはいなくなった。けれども、側近の部下は残っている。奴らを甘く見てはいけないはずだ。必ず切り札を持っているに違いない。
バルザックとセングンは、無言で見つめ合った。
お互いもう何も言う気はなかった。
その時だった。
コツコツ。
ドアをノックする音で、二人は我に返った。入室を命じると、兵士が一人入って来た。
「何だ?」
バルザックが尋ねた。
「セイウン頭領が帰還しました」
突然のことに二人は驚いた。
またお互い見つめ合ってしまった。
「あの馬鹿……ようやく帰って来たか。一か月も、ゆっくりしやがって」
「セングン、そう言うな。いいじゃないか。これで全ての準備は整った」
バルザックが、勝ち誇った笑みをしていた。もう出陣する気のようだ。
セングンはわざと無視すると、冷たく言い放った。
「とにかく、今の状況を説明してやろう」
しばらくすると、セイウンとエレンがやって来た。セイウンは、一か月前に比べると、たくましい顔つきになっていた。