第十一章 語り馬①
要塞を一つ作りたかった。人が増えてきたからである。
現在、兵数は二百ほどだが、これからも増えるはずだった。増えた兵達を住まわせるための場所が必要になってくる。
今朝からレストリウス王国の地図とにらめっこをしながら、セングンは溜息をついた。要塞を作るにしても、近辺には見合う土地が無かった。
「まだ決まらないのか?」
バルザックだった。ここ最近、兵達の調練に精を出していた。
「簡単なことを言うな、バルザック。土地が簡単に手に入るなら苦労はしない」
「街の一つでもいいから、陥落させればいいだろう」
「あのな……二百の兵だけで、そんなことができると思うか?街を落とすにはもっと数がいる。今の数だけでは、小さな村を一つ落とすことが精一杯だ」
「しかし、兵達はだいぶ鍛えた。その辺の軍より強いはずだ」
バルザックは、顔をしかめた。語気も微かに強くなっていた。
何が言いたいのだろうとセングンは首をかしげたが、すぐにバルザックの意図が読めた。この男は早く戦がしたいのである。
バルザックは数か月前までクルアン王国の将軍だった。就任中に不本意とはいえ、レストリウス王国の討伐に赴いたこともあった。
結果、敗北して帰った。
バルザックは、あの敗戦が今でもしこりとなって残っているようだった。早くレストリウス王国と戦い、あの時の雪辱をそそぎたいという気持があるに違いない。
しかし、今はまだ戦をしかける時ではない。
人材を集める時である。
この城の指揮官は、バルザックとセングン、デュマ、ガストーだった。調練を見た感じはいいかもしれないが、何か足りないとセングンは常に感じていた。
華が無いのだ。
戦には敵からも味方からも畏怖、畏敬で見られるほどの華のある者が必要である。今の城には、そういう人物がいない。バルザックは現状に気付いていないのに、戦をしたがっている。
このままではまずい。
「じっくり考える事も戦だ。違うか、バルザック?」
「違うな。攻めてこそ戦だ」
「お前はもう少し気が長い方かと思っていたが、どうやら僕の思い違いだったようだ」
「こっちもだ。俺はお前と気が合うと思っていたが、どうやら違うみたいだ。やはり戦場の指揮経験がある者と無い者では、考えが合わないらしい」
セングンは何も言い返せなかった。確かに彼は戦場での指揮経験が無かった。