■Story1■
「真美ー!起きなさい!何時だと思ってるの!?」
朝からキャンキャン子犬みたいに甲高い母親の声が脳内に響く。
「真美!ほら!!今日から新学期でしょ!?早く朝ご飯食べて支度しなきゃ遅刻するでしょ!」
別に今さら遅刻しなくたって私の単位はすでにボロボロですよ。
そう頭の中で呟きながらうるさそうに顔をしかめて布団の中に体を沈ませる。
何の反応も示さない娘に対して苛立ちが込み上げて来る母親は、更に甲高い子犬声を響かせて階段を上がり部屋のドアを開ける。
「真美!いい加減になさい!!」
母親は思いっ切り娘が体を沈めている布団をはぎ取った。
「だから言ったでしょう!!いつもいつもあんなに夜遅くまで起きてパソコンだか漫画だか知らないけど夜が開けるまで食らい着いちゃって!そんなんだから朝起きれないのよ!?真美!解ってる!?」
「・・・」
どうして自分の母親はこんなに声が甲高い上ギャンギャン言葉が浮かぶのだろう。本当に子犬みたい。むしろ狂犬だな。
母親の脳内に物凄い刺激を与える説教を無視しながら一人頭の中で納得させる。
しかし狂犬は口だけでは済まなかった。
「ほら真美!!もう休んでいられないのは真美だって十分解ってるでしょう!?あと一年たったら受験なんだから!!」
さすがにこの声を聞いてるのも朝から限界があるのでそろそろ体を起こすことにした。
のっそり、亀が地面を重たく這う様にゆっくり上半身を曲げて。
その姿を見てようやく母親も安心したのか娘に背を向け
「早くしなさいよ」
と言葉を後ろに捨てて階段を降りていった。
溜め息が出る。
このままもう一度布団の中に身を沈めたい。そして深い眠りの世界へと旅立ちたい。
最も後5分以内には支度を整えなければ、再び狂犬がこのドアを突き破ってやって来るのも時間の問題だ。
諦め顔で渋々ベッドから足を降ろして、クローゼットの奥住にある制服を取り出した。
鈴澤真美17歳。
引きこもりがちな生活送って半年目の新学期。
まだ夏の暑さが微妙に残っている九月最初の日差しが、真美にとっては憂鬱だった。




