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暗闘

帝国歴225年 10月1日

帝都 ヘルデンシュタット 午前1:05


「こちら、ウルフドライ。指定位置に展開完了。応答を願う」


秋の涼しげな風に吹かれながら、シューネ・エーデルは02式魔導通信機を耳に当て報告した。


「こちら、ウルフアイン。報告によると敵魔族は男女2名とみられる。15el(1エレ=約1.2m)先の倉庫にて取引をしている模様。特に女の方は高濃度の魔力反応が検知された。俺とツヴァイで女を、ドライは男を始末しろ。逆探知回避のため以後魔導通信は控えること」


「りょーかい」


「了解した」


こんな真夜中に帝都で魔族が何をしてるのやら。おかげでせっかくの安眠が台無しだ。シューネは心の中で毒づきながら通信を切った。

突入時刻まで後少し。防護術式、魔導小銃共に異常なし。準備は完璧。


突入時刻まで5秒。


4、

3、

2ー


「ジーン・ボンバード」


正面から突入するとともに砲撃魔法を打ち込む。裏口からはクルトが、窓を突き破ってエアハルトが侵入し、同時に打ち込む。


倉庫内には魔族が二人。

報告通り中央部に微動だにせず立っている。


「防がれたか」


こちらの接近に感づかれたか。敵は防護魔術を円状に展開し攻撃を防いでいた。

とっさにシューネは20式魔導小銃を構えなおし、二撃目を繰り出そうとした。

ぞわり、と背筋が粟立つ。

反射的に防御魔法を展開する。

その瞬間、


「ゴース・フィーア」


あたり一面に爆風が押し寄せる。倉庫全体を炎が覆い、視界が真っ赤に染まる。

慌てて体勢を立て直し、目線を戻す。クルトが壁にたたきつけられ呻いていた。

魔族がそのすきを突き、裏口から外へと逃走している。


「俺は、女の方を追う。お前は男の方を頼む。」


エアハルトの指示にうなずき、シューネは路地へと駆ける。

強化魔法で身体を強化し、駆け抜けるが、敵との距離は縮まらない。

ーさすがは魔族ー

そう妙な感心をしていると、前方の影が二手に分かれた。

後方のエアハルトに目配せし、シューネは左手へと曲がった。


この路地の先は行き止まりだ。

そう思い路地を曲がったところで、こちらに杖を構える影が見えた。

慌てて、防御魔法を展開する。

刹那の後、爆ぜた。

轟音と共に業火が全身を飲み込む。


「人間にしては、なかなか筋が良いようだな。流石は帝国の犬。」


「帝国の犬とは余計なこというじゃない。」


シューネは肩で息をつきながら言い返す。

敵の魔族は男。がっしりとした体つきに二本の角。典型的なデビル型ーー高出力の魔力攻撃によるゴリ押しを得意とするタイプ。さっきの威力から属性は炎。


「なあ、俺としても無用な戦いは望まない。どうだ?そこをどいてくれないか?見たところだいぶ魔力を消耗しているようじゃないか?」


「魔族が知った口をきくものね。あいにく、魔族は全て殺すようにとのお達しよ。それに私は魔族の言葉を信用するほど馬鹿じゃない」


「そうか、なら仕方ないな」


その言葉とともに、地獄の窯をひっくり返したような火焔があたり一面を覆い、シューネに襲い掛かる。

真っ赤に輝くその火焔がシューネに触れる瞬間、分厚い氷の障壁がその行く手を阻んだ。


「おお。人にしては中々やるな。でもどうやら相性はこちらに有利のようだな。」


シューネが展開した氷魔術の防壁を見て魔族がそう笑う。確かに相性は最悪だ。敵は炎属性、こちらは氷属性。

氷の障壁がチリチリと音を立てながら溶ける。

滴り落ちた水が、足元に広がる。

一度撤退するべきか。

シューネはそう判断し、前方へと氷の礫を放つ。

ほとんどの礫は魔族に到達する前に溶けて水になった。

だが、一、二撃ほど炎をすり抜け、その刃が魔族の頬を引き裂く。

敵の魔族はわずかに呻き後方へと下がった。

そのすきをつき、シューネは後方へと駆けだす。

魔力をすべて身体強化に回し、スピードを上げる。


「賢明な判断だな。だがもう遅い。」


路地を曲がるまであと一歩、そう思い足を踏み出した瞬間、ボォという轟音とともに目の前に炎の壁が立ちはだかった。

優に5elはあるかという炎の壁が、通れるものなら通ってみろと言いたげにその真っ赤な体を輝かせていた。

打ち出した氷の礫が触れた瞬間、水となり足元に落ち、広がった。

これでは少し触れただけで丸焦げになるだろう。

シューネは両手を上げ、降参したわと言いたげな表情をして言った。


「すでに、術式を仕込んであったってわけね。やられたわ。」


「久しぶりに楽しい勝負ができたな。人間。」


そう言いながらカツカツと魔族が近づいてくる。無残に溶け切った防護壁の残骸を超え、シューネの前に立つ。ぴしゃと靴底が水たまりを踏んだ。

状況は最悪......だけど


「何か言い残すことはあるか?」


ーこれなら勝てる。ー


「あら、それはそっちのセリフではなくて?」


シューネは手を下ろし、足元の水面に向け氷魔法を放った。


「何を?」


そうつぶやいた魔族の心臓を下から氷の剣が貫いた。


「!?」


驚愕の表情で目を見開いた魔族ががっくりと膝をつく。


「鏡面魔法。思い込みが命取りだったわね。」


そう言ってシューネは魔族の首筋に氷の刃を叩き込む。主を失った胴体が水たまりの中に倒れこんだ。



夜風が焦げ臭い香りをあたり一面に運ぶ。


「こちら、ウルフドライ。対象の排除を確認。回収を願う」


02式魔導通信機から口を離し、魔族の死体を検分する。

キラリ、と魔族の懐で何かが光った。


「あら?なぜこれが?」


シューネは手元で怪しく輝く宝石ー魔呪結晶ーを見つめ首を傾げた。


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