予鈴がなるまで
逢沢くんに恋をしています。
彼はかっこよく、時にかわいいです。ハンドボール投げが苦手なところがすごく愛おしく感じます。
「そこまで好きなら告白すればいいのに」
彼はボクのお友達の諸星 京。ボクは勝手にとっしーって呼んでいます。
「そんなに簡単な話じゃないんだよ!彼はあんなにも上のクラスにいるのに、下界のボクが告白なんて…」
「そうやって分けるのを、逢沢は望んでないよ?多分だけど」
確かに、逢沢くんはそういう差別的なことを好むタイプではない。
誠実で、クラスの中心にいるタイプ。彼は優しい。こんなボクにもね。
ちらっと目線を外せば輝いてる彼は、こっちなんて気にしてない。
「なんでボクは八雲なのだ…」
そう言って突っ伏してしまう。
「まーだ言ってるよ。それに関しては前納得したんじゃなかったのか?」
" あ "いざわと、" や "くも。出席番号が一番と、三十二番である、最後から二番目の席。
遠くて絡みにくい。そして何より悲しいことは、この席だと逢沢くんが見えないということ。
今は休み時間で皆友のところに行ってるから、席がところどころ空いている。だから、見える。
授業が始まると、ちゃんと個体になってしまうので隙間がない。だから、見えない。
「納得?あんなの納得に入らないよ!納得っていうのはさ…」
「あーはいはい、すみませんね」
そこで、丁度よく予鈴が鳴った。バラバラしていた皆も、自分の席につき授業の準備を始める。
高校一年生初めての体育祭が間近にあった。なので、最近の放課後は練習三昧。
あいにく、逢沢くんとはグループが違うのでまたもやとっしーと同じ競技に参加することになっていた。
「はぁ…。ボクってなんでこんなに不幸なの…」
「ため息は幸せが逃げるぞー」
もう今の時点で幸せがない場合どうすればいいのさ!逃げる幸せもないよ!
しかも今やらされてるのは競技に何の関係もないただの箱運び。実行委員でもないボクにやらせないで!
「八雲」
聞き慣れているはずなのに、少しだけ意外な声が聞こえた。
「…ぉえ、え?あ、逢沢くん…。どうかした?」
急に来ないでよ、変な声出たよ。でも、顔が美しく、優しい彼のことを思い出して急激に緊張が走った。
「それ、俺運ぶの手伝うよ」
持ってた大量の箱を指さして彼は言ってくれた。言った矢先、ボクの心がオーバーヒートして持っていた箱を全て落としてしまった。
幸い、中は空だったのでなんの影響もなかったが…。何より、逢沢くんの前で恥をかいたことが悲しい。
「だから言ったろ、俺が持つよ」
や、優しい…。やはり彼は前世女神?いや今世も女神なのか?でも女じゃないしな…。
「…ほんとに、ありがとう」
ボクはなんてヘタレなのさ。こんなことしか言えない自分自身を恨みたいよ。
「こんなの朝飯前。いつでも頼って?」
にこにこと綺麗な顔で笑う彼見て、ボクは下を向いて嬉しさを噛み締めることしか出来なかった。
「旭〜!何してんの?」
クラスのかわいい系女子が集まってきて、逢沢くんを囲む。一瞬こっちを見て、笑ってくれる。悪い子達ではない。
「そんな箱、持っていかなくて良くない?ってか!その担当、八雲くんじゃなかった?さっきセンセーから聞いたんだよね」
おっしゃる通りです。…これはもしや、逢沢くんも持ちたくて持った訳じゃなくて(それはそう)、罰ゲームかなにかだったのでは…!?
「すみません!持っていただいて。ボクは大丈夫だから先に行くね」
「ちょっ…」
「旭、いこいこ〜」
箱を無理やり取って、その場を去った。後ろを見ても追いかけてくる様子はなかったので全力は出さなかった。楽しそうな女の子の声が聞こえてくる。
しかも、ここで女の子達に喧嘩を売ってもいいことは無いし。
でも体育館倉庫に着いた途端、後悔が押し寄せてきた。
「逢沢くん痛くなかったかな…。」
大きめの動作で箱を無理やり取ってしまったので、相手への配慮は足りていなかった印象。
「痛くなかったよ…っ」
「っ…?」
体育館倉庫まで来たのに、走って追いかけてきていた逢沢くん。早すぎる。女の子達もいたのに、どうしてこっちに来てしまったんだい…。
「…そ、そっか。痛くなかったなら良かった!じゃあボク行くから…」
「…行かないで」
おわー!少女漫画でよくあるシチュエーション!(腕を掴む)これ以上ここにいたら心臓がほんとに爆発します!
体育館倉庫ってのもなんか仕組んでますよね!
「……いや、でも…」
「最近やたらと目が合うなって思って。」
…、恥ずかしいこと極まりない。陰キャは見られてるのがいちばん恥ずかしいんだから。
今は平常心を保つのがいちばんムズい。
「…いや、…まあ、うーん…。」
「実はさ、俺も…」
そこまで言われて、彼の電話が鳴った。
「…どうぞ、出てください。急用かもなので」
何故か敬語になり、気まずさ全開。
「…ごめん。」
彼が電話に夢中になってる間に、ボクは一人で教室に戻った。
足が早いの解釈一致すぎるな…。身長高いのに上目遣いがかわいいのも罪。いや、身長高いからなのか?ギャップ萌え的な。
その頃ボクはもうさっきの気まずさなんて忘れて逢沢くんの褒めタイムに入っていた。
" 褒める "なんて上から目線すぎて嫌われそうだけど、それでも挙げる。彼のことを一つでも多く覚えておきたいから。
「…ふーん、で?告白されそうになってたってこと?」
「話聞いてた!?」
聞いてたはず?みたいな視線を送ってきて、睨みで返した。
今は昨日のことを恋愛マスターのとっしーに相談しているところだ。
「とっしーはこんなハラハラを感じたことがないからそんなこと言えるんだよ!明日からもう口を聞いてくれないかも…とか」
「考えすぎ…。……お」
急に目線をボクの上にするとっしーは、何故か嬉しそうに笑っていた。
「ど、どうした…?」
まで言った所で、ボクの視界は真っ暗になった。




