表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こがねの魚と銀の月  作者: 寄賀あける


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/50

28 (ジゼル)

 小鳥たちにパンを分けているときに誰か来た。この人、誰だったっけ? わたしはこの人が好き。そうだ、シャーンだ。こんなに早い時刻にも来られるんだ、と不思議だったけど、嬉しかった。


「シャーン」

「ジゼル」

わたしたちは微笑みあって抱き締めあった。幸せ。


「シャーン、今日は早いね」

「そうね、でも永くは居られないの」


 朝食の後の時間があいていたから、とシャーンは言った。次の講義に間に合うように帰らなきゃ、とも言った。


「講義、って?」

「魔導士学校の教授が学生のためにいろいろ教えてくれるのよ」


「教えてくれる? 自分が何者か?」

「そうね、直接ではないけれど、突き詰めていけば、そうなるわね」


 そうか、やっぱりシャーンとあの男の子は魔導士学校で自分を知っていった。


「わたしも魔導士学校に行ける?」

「魔導士学校に行きたいの? ジゼルが望めば行けるはずよ」


「本当に?」

「うん……ジゼルは力を封印されているのでしょう?」


 封印……なんの事だろう?


「ビルセゼルトが、わたしが飛べるようになるか、もうすぐ判るって言っていた。この事?」

「やっぱりそうなのね。適性とか得物とか言っていなかった?」

「適性があれば、って言ってた。次の誕生日に判るって」

シャーンがわたしを抱き締めた。

「誕生日が楽しみね、ジゼル」


 なぜシャーンはわたしの誕生日を楽しみだと思うのだろう? 判らないけど、きっといいことがあるのだと思った。いいことがあるから楽しみ、うん、そうに違いない。


「木のような男、シャーンを罰したりしてない?」

昨日から気になっていた事を訊いてみた。


「木のような男? デリスの事ね。そんなことないわよ」

とシャーンは笑う。


「誰も誰かを罰したりしない。罰を受けるなんて、よっぽどの事がなければないわ」

「そうなんだ……」


「そうよ、だから世話係の魔女たちがジゼルを罰したのは間違いなのよ。ビルセゼルトもそう言ったでしょ?」

「昨日、シャーンは困っていた。木のような男のせい?」

するとシャーンの顔が赤くなった。


「ジゼルが言う木のような男ってね、デリスと言うの」

「デリス、覚えた」


「うん、そのデリスから、『好きだ』と言われたのよ」

「好きだと困る? シャーンは好きになられると困る?」


「違うのよ、ジゼル」

デリスの『シャーンが好き』は、わたしが言う『シャーンが好き』と、同じ好きでも好きの種類が違うらしい。


「デリスはね、わたしを女の子として好きなの」

「あ、判った。(つがい)の相手だ」

「つ・が・いって……」

プッとシャーンが笑った。そんなに可笑(おか)しなこと、わたし、言った?


「まぁ、そうね、そんな感じ。でも、わたしはそんなことを考えたことがなくって、驚いたし、なんて答えていいか判らなくって困ってしまったの」

「うん、小鳥たちも(つがい)の相手は慎重に選ぶ」

「そうね、大事(だいじ)な相手だものね」

シャーンはニコニコ笑っている。良かった、楽しいと感じてくれている。


 そうだ、わたしの話をしたら、もっと楽しいと思ってくれるかもしれない。


「わたしは女になると決めたら考えてもいい、と答えた」

「え?」

「結婚して欲しいと言われたから、そう答えた」


「それは誰に?」

「男の子。名前は聞いてない」


「いつの事?」

「いつか、男の子がちゃんとした職業に就いたら、って」


「あぁ。そうじゃなくって、いつ言われたの?」

「一昨日」


「いくつくらいの男の子?」

「いくつって年齢? もうすぐ十六だって。だからカタカゴの花を十六本あげた」


「そう……魔導士学校の学生かしら」

「うん、そう、学生。職業をどうするか迷っているようだった。暮らしに困るようなことにはならないって言っていた」


「その人とはどこで会ったの?」

「沼がある。緑の沼。その人は沼の絵を描きに来ている」


「……絵を描きに?」

「そう、本当は絵描きになりたいみたい。でも才能がないって言っていた」


「その人はジゼルの名前を知っている?」

「どうだろう。知らないと思う。聞かれたけど答えてない」


「……」

「シャーン?」

何か気に入らなかったのかな? シャーンから笑顔が消えて、何か考え込んでいる。


「シャーン、わたし、何か悪いことした?」

「え?」

やっとシャーンがわたしを見た。


「ううん、ジゼルは何も悪くないのよ」

「誰かが悪いみたい」

「ごめん、誰も悪くない」


 そしてシャーンは次の質問をした。

「ジゼルはその男の子が好きなの? その……結婚したいの?」

「結婚……どうだろう。その男の子は好きだけど、シャーンも好き」

「そう、そうね。そうよね」

シャーンは何か心配しているみたい。


「一番好きな人はほかにいるよ」

「そうなんだ。それは誰?」

「ビルセゼルト。あの人が一番好き」

「ジゼル……」


 シャーンはまたわたしを抱き締めた。今日のシャーンはいつもとなんだか違うみたい。


「シャーン? ひょっとして泣いている?」

「ううん、泣いてなんかない」


 今、目を擦ったのは涙を拭いたからなんじゃ?


「それよりジゼル、わたしにその男の子、紹介してくれない?」

「紹介? 会いたいの?」


「そう、会いたいの。その沼に連れて行ってくれる?」

「今日はヒヨドリの刻が少し過ぎたくらいに来ると言っていた」


「ヒヨドリの刻……判った。わたしもそれくらいの時刻に行くから、沼じゃなく、お部屋で待っていて」

「うん、一緒に沼に行こう」

約束して、シャーンは帰って行った。


 シャーンが帰ってから、どうしてシャーンはあの男の子に会いたいんだろうと考えた。判らなかったけど、まぁ、いいや。あの男の子もシャーンに会えれば嬉しいんじゃないかな? きっと嬉しいと思ってくれる。


 わたしが大好きな二人が仲良くしてくれると、きっとわたしは嬉しい。三人で仲良く話せたら楽しいはず。


 部屋に戻ってシャーンがくれたスズランを眺めた。これを持って『シャーンの(もと)に』と言えば、シャーンのお部屋に行けると言っていた。白いスズランを白い花瓶に生けるのはどうかと思ったけれど、他にないから仕方ない。


 シャーン、大好き。男の子も好き。でも、あれ? 男の子も好き、じゃ、なんか可怪(おか)しい。あとでシャーンと一緒に沼に行ったら、男の子に名前を訊こう。


 名前を訊いたら教えてくれるかな? わたしの名前も教えてあげよう。いつか訊かれたけれど、(はした)ないかもしれないと答えなかった。きっと知りたいと思ってくれている。


 人は人と接することで幸せになれると、ビルセゼルトが言っていたけれど、本当だ。シャーンと知り合い、男の子と出会い、わたしは幸せを感じている。


 早く沼に行きたいな。男の子に会いたいな。シャーンも一緒に行ってくれる。シャーンと一緒がすごく嬉しい。


 ふと、男の子の顔を思い浮かべた。あれ? ビルセゼルトの顔と、同じになっちゃう。それとも、ビルセゼルトの顔が違うのかな? ビルセゼルトに会ったのは一度きりだから。


 あとでよく見ておこう。同じ顔のはずがない。わたし、忘れっぽくって、いつも『誰だっけ?』って誰に会っても思う。


 まぁ、いいか……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ