○○○戦隊フィーシーズ
以前、かぐつち・マナぱさまに一作書いてみないかと言われた、初の試みとなる作品です。
周囲を警戒し、飲食は控えめにした上でお読み下さい。
「それではこれで失礼致します」
それは極普通の一般住宅から極普通のセールスマンが退出していく、極普通のありきたりな光景。
どこにでもある日常の一コマだ。
そのはずだった。
「待てぃ!」
そこに制止の声が掛かった。 何故か、掛かった。
それと同時に流れ始める大音量のBGM。 何度も再生したのだろう、何処か擦り切れた様なレトロな音源だ。
♪ My stomach hurts. stomach hurts. (Oh no!)
A moment of bliss in a rushed toilet.
英語の歌詞だ。
合っているかどうかも解らない、英語の歌詞を高らかに謡うのは古いラジカセ。 それを手に持ちセールスマンへ向って歩くのは三人の男女。
逆光の為セールスマンから顔は見えないが、男女ともにメリハリの利いた体つきをしているお陰でそれだけは判った。
先頭の男は手にしたラジカセを地面に置くと、大仰にポーズを決めた。 マッチョなマッスルボディをフルに使い、解りやすく見せつける。
一歩進んだお陰か顔が見えた。 アメコミで出てきそうな彫りの深い顔が露わになる。
「自然に還るモノなのに! 薬品を使い洗浄する!」
♪ I took a deep breath and opened my eyes.
BGMは続く。 意味があるのかないのか解らないが、兎に角続く。
細い、スラッとした男がマッチョに続いて前に出た。 彼は何やら香ばしいポーズを取りながら、メガネの位置をくいっと直す。 鼻が低い。
「自然に還るモノなのに、水で流してサヨウナラ」
声が細い。 BGMの音量に負けて殆ど聞こえない。
よく見るとスラッとした、というよりはやつれているようにも見える。 顔色も悪い。
♪ That’s when you realize the despair,the despair you have become aware of.(Damn it! Is that me!?)
最後の女がセクシーに前進する。
左右のヒールの高さが違うモンローウォーク。 よく見たらハイヒールの色が左右違っているというこの台無し感よ。
「そんなヤツらはわたし達が許さない!」
♪ There’s no paper! There’s no paper! There’s no toiletpaper!
「俺はベン! ベン=ジョージ!!」
マッチョが名乗った名前は何故かファーストネームがふたつだった。 家族に見捨てられたのか、その名前は?
だがその場にツッコむ人間はいない。
「ワン!」
あ、野良犬が吠えてる。
「僕はゲーリー=クダーシハラー」
何となくやつれている理由の解りそうな名前だ。 何となくな。
よく見ると右手は香ばしい感じで顔の前にあるが、左手は腹を押さえている。 痛いの?
「わたしはヂェーン=ヤマイダレ! ジじゃなくてヂよ?」
病だれな上に『ぢ』ったらもうそれしかないだろう。 ちゃんと治療をしないと大変だぞ?
♪ It’s a Japanese-style toilet without a washlet,and there’s no toiletpaper!(Are you serious!?)
…………キュルキュルキュル……
和訳したら後悔しそうな歌が流れる。 流れ続ける。
だけどちょっとだけ異音。
「俺たち!」「僕達」「我ら!」
みんなバラバラだ。
何故統一しなかったんだ、お前ら……。
「「「UNCHI戦隊フィーシーズ!!」」」
それでもポーズは統一感があった。
何というか、いかにも練習したであろうという痕跡の見え隠れする出来映えであった。
彼等はそのポーズで十秒程不動でいたと思ったら、急に動き出しパパパッとゲイリースーツに着替え始めた。
ゲイリースーツ、またはギリースーツと呼ばれるそれは所謂迷彩服である。 本来なら全身から短冊状の布や糸を多数縫い付け、それに草木や小枝などを貼り付けたりするモノだが、彼等のそれは何と表現すべきか、ドロドロとしたヘドロの様なモノだった。 茶色の。
三人は素早く着替え ――あ、ひとり転んだ―― 再び先程のポーズに戻る。
その表情は悦に浸った、分かりやすく言えばドヤ顔だった。 ナルシスさんも真っ青である。
――DOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOON!!!
そんな三人の背後で唐突に爆発が起きた!
戦隊ものさながらの演出かと思ったが違った様だ。 三人とも目を見開いて後ろを見ている。 何故かラジカセが爆発をしたようだ。 くわばらくわばら。
驚愕し後ろを向いて固まっている三人を尻目に、セールスマンはそっとその場を立ち去ろうとしていた。 賢明な判断だ。 ヤツらが悦に浸ってる間に動けていたらもっと賢明だったろう。
残念賞である。
「あっ、コラ、逃げるな」
か細い声でゲーリーが言った。 叫んだ、ではないのが情けない。
「ゲーリービーム」
ゲーリーの声と共に彼の右掌から茶色い、一筋の線が迸った。
ちなみに蜘蛛が糸を出すのはお尻ではなく、そのすぐ傍にある糸疣と呼ばれる器官であるが、知名度の高い某蜘蛛男さんが手から糸を出すのは有名であろう。
だが、いくらなんでも『本物』ではないだろう。 ないと、そう言って欲しい。 むしろそう言え!
ビームといいながら水鉄砲の様なそれはセールスマンに届く前に地面に落ちてしまったが。
「これを躱すか」
躱してない。
それでも辺りに立ち籠め始めた異臭にセールスマンは顔を顰めた。 めっちゃイヤそうな顔でいらっしゃる。
「お前たち、何者だ!」
くぐもった声で彼は叫んだ。 何故くぐもっているかと言えばハンカチで口元を覆っているからだ。
「我らは大自然の使い!」
「うんちはくみ取り、自然に返す」
「洋式トイレ、許すまじ!」
「「「UNCHI戦隊フィーシーズ!!」」」
それはさっき聞いた。
「つまり! 我らは!」
「アンチ浄化槽!」
「アンチ下水処理」
「うんちは肥だめに!」
「「「UNCHI戦隊フィーシーズ!!」」」
何故繰り返す?
「お前たちがあの!?」
あれ? 知ってるの? サラリーマンさん。
「国際的自然回帰型テロリスト、フィーシーズ!?」
マッチョが一歩進んだ。
バシャ、っと先程の茶色い水溜まりに足をツッコんでいる!
その顔が青くなったのは多分気のせいじゃない。
「テロではない!」
それでもそこは否定する、流石マッチョ。
「俺たちが正義!」
「僕達こそが自然」
「我らこそが………………あれ? なんだったかしら?」
「「UNCHI戦隊フィー……って忘れるなよ!」
綺麗にずっこけたゲーリーが水溜まりに転び、絶望的な表情をしている。
「…………うんち塗れのテロリスト……」
「糞塗の拳!」
コイツ、拳のルビを『コブシ』じゃなく『コヤシ』にして殴りかかってきた!
まるで一週間ぶりに顔を出した排泄物の様な、そんな固さの拳をもってセールスマンを殴りつける。
クリーンヒット!
汚いけど綺麗に決まった見事な一撃だ。
サラリーマンはその触れられた部分を苦悶とも暗澹とも言えそうな表情で見つめながら吹き飛ばされていった。 折角のスーツが台無しであるから仕方あるまい。
「正義は勝つ!」
まだ言うか、うんち怪人。
彼等は登場した時のようにバッとポーズを取った。
「「「今日も勝利だ、フィーシーズ!!」」」
そしてラジカセのスイッチを入れようとして寂しげな表情を浮かべた。
そう、ラジカセは既にその命を終えていたのだから……。
今日の戦果:サラリーマン(水洗トイレの販売員)…ひとり
次回! フィーシーズのライバル登場!?
ヤツには三人の攻撃が通用しないのかっ!?
無敵! 陶器製の鎧を着るトート! こうご期待っ!
続かない
♪ 腹が痛い、腹が痛い(なんてこった)
駆け込み入ったトイレでひとときの至福
深く息を吐き出して オレは目を見開いた
そこで気づく絶望 気づいてしまった絶望(くそったれ! それはオレか!?)
紙がない! 紙がない! トイレットペーパーがない!
ウォシュレットのない和式トイレなのにトイレットペーパーがない!(マジかよ!?)♪
Feces=糞便




