第9話 信頼の証
アレンは周囲の敵を一掃した後、地図を確認する。
リュミナは最下層の地下5階にいるようだ。
そこでリモートコンタクトの魔法を思い出した。
『リュミナ!?無事か?!』
(……この声)
『……。ん……。あ、アレン?!ここ、どこ?!』
(……声が聞こえた。
アレンの声。
……よかった。無事なんだ)
『無事か、よかった。地図を見ろよ!お前の魔法だろ!
お前は最下層にいる!』
『あ……。そ、そうね。』
(むぅ……地図のこと指摘されたの……なんか超悔しいんですけど)
『ねぇ、すぐに迎えに来れる?』
『あぁ、すぐに行くから。動かず隠れて待ってろ!』
『わかった!早くきて!』
(……ゴーグル渡しておいてよかった……。
私のリスク対策、神懸ってない? )←偶然
アルカノス遺跡の地下4階への下り階段。
そこに、ひとりの男が座って精神を集中させていた。
レーザーブレードを握り、リュミナのもとへと急いでいたアレンの足が止まる。
『アレン?どうしたの?』
『大物がいた。少し時間がかかる。待っててくれ。』
この戦いは――自分の力で決着をつける。
アレンがゆっくりと歩み寄ると、その男が立ち上がった。
“ギィ”と金属がこすれる音。巨体の男が振り返ってアレンを睨みつけた。
「よう、アレン。元気だったかよ」
バルドだった。
かつて《白銀の風》の前衛を務めた、鬼人族オーガの戦士。
両手の棍棒を肩に担ぎ、血走った目で笑っている。
「……バルド。なんでここに」
「理由なんざ単純だ。てめぇを叩き潰しに来た。それだけだ」
その声には、理屈も策略もない。
ただ、濁った怒りだけがこもっている。
「……グレンの差し金か?」
「知るかよ。あいつのことなんざ、どうでもいい。
ただな――あの酒場でのこと、俺ァ忘れちゃいねぇんだ。
俺の指を切るだぁ?
荷物持ちのクソギフトヒューマンが何を偉そうに!」
棍棒を地面に突き立て、牙を見せて嗤う。
「やれるものならやってみろや!!」
アレンは静かに呼吸を整え、ブレードを構えた。
・ ・ ・
(アレン……どうしたの!?一か所で激しく動き回ってる!?
強敵に襲われた!?)
端末の地図を見つめる。
青い点が激しく動いている。
(お願い!アレン、無事でいて!!)
猫耳が震える。
手が震える。
リュミナの祈りの裏側では二人の男が激しく戦いを繰り広げていた。
「おらぁっ!」
壁が砕け、砂が飛び散る。
棍棒が風圧で凄まじく、一度でも当たれば致命傷だ。
アレンはギリギリで身を捻り、横跳びで回避。
続けざまに、バルドの巨体が飛び込んでくる。
巨体のくせに速い。
それがバルド最大の武器だった。
「避けるのは得意だが……殴られたら終わりだぜ!」
地面を砕く一撃。
衝撃波でアレンの体が浮く。
すぐにバルドの肘が迫る――が、レーザーブレードが閃いた。
青い刃が軌跡を描き、火花を散らす。
だが、野生の勘か、すぐにバルドが腕を引き戻した。
「そいつはァやばそうだな!」
「くそ……!当たらん!」
アレンは舌打ちする。
今はリュミナによるシールドの支援がない。
当たれば終わり、だがそれはバルドにとっても同じだ。
こちらのレーザーブレードは奴の鉄壁の防御ですら貫けるだろう。
「おらおら!どうした、荷物持ち!」
バルドの連撃。
避けるたび、激しく壁や床が粉砕される。
息をする間もない。
(……まずい。こいつ、俺の間合いを完全に読んでやがる)
後退しながら、アレンは周囲を確認する。
通路の岩壁に、魔力鉱石のランタンが吊るしてある。
それが微かに、青く光り、この遺跡内の光源となっていた。
アレンは深呼吸し、距離を取る。
「おい、逃げるのか?」
「逃げねーよ!以前の俺と思うなよ!」
「はぁ? なに――」
その瞬間、アレンはブレードを薙ぎ払った。
ランタンを斬る。
刃の熱で、魔力鉱石が爆発的に反応する。
――轟音。
岩壁が崩れ、土煙があがる。
バルドが目を覆う。その隙にアレンが突撃。
右脚を斬りつけ、左腕を狙う。
「ぐっ……てめぇ、卑怯な真似を!」
「戦い方を選んでる余裕なんかねぇよ!」
刃が閃き、バルドの肩甲を貫く。
青白い閃光が走る。
だが――それでも倒れない。
「ハッ、そんなもんじゃ俺は止まらねぇ!」
バルドが地面を踏みしめ、膝を曲げる。
筋肉が膨張し、血管が赤く光り始めた。
「……それが、お前の切り札か?」
「あぁ、〈肉体強化〉――オーガの誇りよ!!」
バルドの全身が赤く発光し、筋肉が鎧のように隆起する。
ただの打撃が、もはや衝撃波になっていた。
アレンは一撃を受け、壁に叩きつけられる。
肺がつぶれるような痛み。
だが、彼は立ち上がった。
リュミナに背中を支えてもらえた気がした。
再び気力が満ちた。
「……確かに、お前は強い。
でも――それは“暴れる力”だ。
俺のは、“生きる力”だ!」
「抜かせ!」
バルドが突進。
その瞬間、アレンはレーザーブレードの出力を最大に上げた。
光刃が唸りを上げる。
「おらぁぁっ!!」
地面を蹴り、バルドが飛ぶ。
アレンは踏み込み、低く構えた。
「俺はもう逃げない!――来い」
すれ違いざま、青い閃光が走った。
バルドの棍棒が空を裂き、アレンの頬をかすめる。
だが次の瞬間――バルドの巨体が動きを止めた。
胸の中心。
そこに、ブレードの光が突き抜けていた。
「俺の……この筋肉を……貫いただと?!」
「単純だ。お前は“強さ”を信じて、俺は“仲間の力”を信じた。
このブレードは――リュミナがくれたんだ」
バルドの瞳から光が消え、巨体が崩れ落ちる。
再び遺跡に静寂が戻る。
アレンは座り込んで、通信を再接続し、微かに笑った。
『……終わったよ、リュミナ』
(……この声)
涙が出そうになる。
『アレン!?よかった!よかったー!!
心配したんだよ!馬鹿!!通信切るなよ!』
(……ほんとに、馬鹿。
心配したんだから……)
猫耳が小さく揺れる。
『すまん。でも集中したかったんだ。
大丈夫、大した傷はない。』
『……本当に? 反応が消えたから、本当に心配で……』
『心配かけたな。でも、もう大丈夫だ』
しばしの沈黙。
リュミナは心の底から安堵した。
(よかった……あなたが無事で……ほんとに……)
『……ありがとな、リュミナ。お前の力、ちゃんと借りたぞ』
そう呟き、アレンはブレードを収めた。
その目に、かつての“荷物持ち”の影はもうなかった。
『今からいく。もう少し隠れていてくれ!』
チート武器舐めんな!って感じです。多分、普通の剣だったら弾かれたんだろうね、
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