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銀河帝国出身の私が異世界の猫たらしに命令されて恋に落ちました【猫恋】  作者: ひろの
第1章 星空の誓い

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第7話 影に潜む策士

市場の喧騒が、朝の光に満ちていた。

パンの焼ける匂い、香草の香り、果物を並べる声。

人々の笑い声や呼び声が響く通りは、活気にあふれている――はずだった。


けれど、リュミナには――それよりも、心の奥に引っかかる違和感があった。


通りを歩くたび、視線が刺さる。

好奇の目、警戒の目、そして――軽蔑の目。


(……私、何か変?)


リュミナの猫耳は光を受けて揺れるが、服装も清潔に保っている。

なのに、なぜ――。


「気にすんな」


横でアレンが低く言った。声は静かだが、妙に重い。


「ここは“純血区”だ。ヒューマン以外が歩いてれば、どうしたって浮く」


「純血区?」


リュミナが眉をひそめる。


「この辺の連中は血の濃さにうるさい。特にヒューマン至上主義の奴らはな」


アレンの目は通りの向こうで、小さな影に止まった。

丸みを帯びた犬耳をもつヒューマンハーフの少年――ニール。


パン屋の前に立ち、手を伸ばした瞬間、怒鳴り声が響いた。


「触るな、汚れ耳! 買う金もねぇのに!」


少年は肩をすくめ、顔を伏せて逃げていった。

通りの誰も助けない。見て見ぬ振りをして、ただ通り過ぎるだけ。


リュミナは端末を握りしめた。


(……ひどい。

 帝国でも種族差別はあるけど、ここまで露骨じゃない。

 生まれなんて本人は選べないのに)


「……アレン、あの子たちのために、私たちができることはある?」


アレンの瞳が、少しだけ柔らかく光った。


「できることはある。

 だが、全部は救えない。それでもいいか?」


「……うん。一人でも、救えるなら」


アレンは小さく笑った。


「お前、本当に優しいな」


「べ、別に……当然のことやってるだけ!」


リュミナの耳が赤くなり、ぱたんと伏せた。


アレンが先ほどパン屋に追い払われて、路地でうつむき座り込んでいる少年ニールのそばにゆっくり近づいていった。


ニールが人影に気づいて、慌ててアレンを睨みながら後ずさった。


アレンは微笑みながら、鞄からサンド工房ルナリスのロゴマークがついた紙袋を取り出した。


(あ!?それ、私が楽しみにしてたルナリスの星霜サンド!?)


魔力酵母パンで、星霜チーズ、月菜、銀胡椒をサンドした甘じょっぱい、ふわふわシャキシャキのサンド。

この星の食事の中でもリュミナが最も好きな食べ物で、一度食べてからは癖になって、今日も朝早くから並んで買ったものだ。


「お腹減ってるのか?このお姉ちゃんが、これ食べなって。」


親指でアレンがリュミナを指さす。


「あぁ……ああぁぁぁあぁぁぁ。」


何とも言えない顔で大きく口を開けたリュミナが、引きつりながら微笑んでいる。


「いい匂い……美味しそう……ミアも喜びそう!!ありがとう、おねーちゃん!!!」


「あーはははーはは。どーいたしましてー」


紙袋を受け取ったニールが路地裏の奥に走り去っていった。


「うん、よかったな、リュミナ。一人、いや二人か?救えたな。」


「そっそうだね。アレン。でも良い事を一つだけ教えてあげる。

 食べ物の恨みは深いよ。」


頬を膨らませたリュミナが泣きそうな顔でアレンを見つめた。


「あ……あははは……。俺、明日また買ってくるわ。」


「私、今日の分と2個食べるから!!」


「はっはい!」


しばらくして二人同時に笑い出す。


「ま、いっか!あの子、喜んでたね。」


「あぁ、妹がいるん。きっと大喜びするぞ」


「そうね。」


そういいつつ、アレンを小突いた。


「2個買ってくる約束は忘れないでね!」


「!?」



そんな二人を見つめる影があった。


「ちっ、いちゃつきやがってクソがっ!」


銀髪、黒のコート、冷ややかな瞳――グレンだった。


だが……利用する価値がある

心の中で冷笑を浮かべながら、彼は次の一手を静かに描き始めた。

――善意を抱く二人、巧妙な罠へと誘い込む計略を。


・ ・ ・


その夜。

市場の片隅、グレンは黒いフードを深く被り、悪党と顔を突き合わせていた。


「12番街の犬耳兄妹――その兄の方を攫って、アルカノス遺跡に捨ててこい」


金貨を1枚差し出す。


「遺跡の奥深くに……戻ってこれないようにな」


悪党の目が金貨に吸い寄せられた。


「……了解した」


男たちは闇に紛れて去っていく。


グレンは薄く笑った。


(あいつらが動けば、すべて計画通りだ)


・・・


翌朝、路地裏で少女が泣いていた。

犬耳のミア。


「お兄ちゃんが、悪い人たちに……」


背後から優しい声がした。


「どうしたの?」


振り向くと、銀髪の青年――グレン。

話を聞いたふりをした後、笑顔でグレンは言った。


「困ったときはギルドに依頼を出せばいい。

 お金がない? 大丈夫、お兄さんが出してあげるよ」


グレンは小さな銅貨を1枚渡す。


「ありがとう、やさしいお兄さん!!」


ミアは笑顔で立ち去った。


グレンは歪んだ笑みを浮かべる。


銅貨1枚――パン1個分ほどの価値、誰も受けない依頼だ。

だが、あの二人なら――


・・・


ミアは兄の救出依頼をギルドに出した。

受付嬢は困った顔をしても、規則だから仕方なく依頼を掲示板に貼る。


「アルカノス遺跡で兄ニールを救出してほしい――銅貨1枚 ミア」


しかし、冒険者たちは誰も引き受けない。

危険は高く、報酬は雀の涙――依頼は静かに残ったままだった。


そんな中、掲示板の前で泣きじゃくる少女を見つけたリュミナが、アレンの手を引いて、歩み寄った。

目の高さを合わせて優しく声をかけるリュミナの瞳が真剣に光る。


「……あなたがこの依頼を?」


ミアが顔を上げ、泣きながら頷く。


「うん……でも、誰も助けてくれなくて……」


リュミナの指先が掲示板の依頼を指す。


「わかったわ。大丈夫よ、私たちが行く。」


(――この報酬で引き受ける人は他にいない。)


「私たちに任せて!」


やれやれといった顔をしたアレンだったが、ミアの肩に手を置き、ニッコリと微笑んだ。


「俺たちが君のお兄ちゃんを必ず助けてあげるよ!」


「う、うん!!!」


そのとき、少し離れた場所で、黒いコートの影がほくそ笑む。

銀髪が光る瞳は冷たく、計画通りに事が運んでいることを楽しむかのようだった。


――善意の背後に、巧妙に仕掛けられた罠が静かに待ち受けていることも知らずに。

ざまぁ要素再起動、ピンチが訪れます。二人は大丈夫か!?


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