第6話 新しい日常
ギルドの依頼掲示板の前に立つ二人。
木製の掲示板には色とりどりの紙が貼られ、大小様々な依頼が並ぶ。
魔物討伐、護衛、探索――どれも危険度や報酬が異なるが、目を通すだけで冒険心をくすぐる。
その中の一つ、ゴブリン退治を受け、二人は森の中へ。
「……この森の魔物討伐、数は多くても小型ばかりね」
リュミナは端末を取り出し、魔力解析や戦術支援の準備を始めた。
小型生体レーダーによって探知した生体反応と、それぞれの個体情報が
表示され、囲まれないように移動を開始した。
画面の光に反射して猫耳が微かに揺れた。
「油断は禁物だ。小型でも群れで来れば厄介だぞ」
アレンは穏やかに微笑み、森に住む猫型の小動物を〈ネコテイム〉で動かす。
茂みを駆け回る猫たちが敵の注意を引き、追い立てる。
森に足を踏み入れると、ゴブリンの群れが姿を現した。
強敵ではないとはいえ、十数体が一斉に飛びかかってきた。
「……アレン、左から群れが! 私が誘導する!」
リュミナの声に合わせ、アレンはレーザーブレードを構えて集中する。
レーザーガンにショック弾を装填し、襲いかかるゴブリンの群れに向けて撃った。
護身用のショック弾がゴブリンの群れの中央で炸裂し、低圧電流が群れを駆け巡った。
混乱するゴブリンたちに、アレンが突撃した。
レーザーブレードが一閃し、一体ずつ両断していく。
「あぶないっ!」
数匹のゴブリンがアレンの背後から襲いかかってきたが、アレンにセットしていたパーソナルシールドを起動させると背後に半透明の障壁が現れ、ゴブリンたちの鉄剣をはじき返した。
それと同時に振り返ったアレンがゴブリンを仕留めた。
リュミナの支援と完全にシンクロしていた。
「……呼吸が合ってる……」
リュミナは小さく息を呑む。
一度も声をかけずとも、二人の連携は完璧だった。
戦闘が終わると、森は静寂を取り戻す。
ゆっくりと近づいてきたアレンが腕を上げる。
笑顔でハイタッチした。
倒れたゴブリンの数を確認し、リュミナは端末で戦闘ログを整理する。
「……私、少し楽しかったかも」
思わず口にしたその言葉に、アレンは微笑んだ。
「……あぁ。
リュミナがいてくれたらどんな敵でも勝てそうだ。」
その声にリュミナは小さく頷く。そしてリュミナも言葉を返した。
「アレン、……あなたがいてくれたら、どんな敵にも勝てそう。」
一瞬、目を見合わせたあと、再びハイタッチした。
初めて、二人の間に“冒険者としての信頼関係”が生まれた瞬間だった。
夜、安宿の一室。
木造の床、かすかな外の風の音。
ベッドは一つしかなく、そこにはほのかな古い木と香草の匂いが混ざる。
「どういうこと?……一緒に寝るの?」
「あぁ、すまん。もっと稼げたらいいんだが。」
リュミナの耳が小さくぴくり。倫理的には信じられない状況だ。
だが、冒険者にとっては一人1ベッドは贅沢。郷に従うしかない。
(そりゃ……そう。そりゃそう。そりゃそう??ほんとにそう?
でもでもでも。私達、ニャーンだってレヴェリス人と同様に
2000年くらい前は中世だったんだから。
きっと、こうやって雑魚寝してたはず。
多分そう、これは普通、これは普通?おい、普通か、これ?)
内心で大混乱しつつも、仕方なくリュミナもベッドに入る。
特にアレンが何かしてくる気配はない。
(まぁ、これがこの星の人々の日常か。意識するな、私!)
アレンは当然のように横になり、自然に少し体を寄せてくる。
リュミナは心臓が跳ね上がり、耳が熱を帯びるのを感じた。
アレンにしてみたら特に他意はなさそうだ。
(……郷に従うか……でも、こんな……!)
すぐにアレンの寝息が聞こえてくる。それは穏やかで、とても熟睡している。
リュミナは枕の端に小さく丸まりながらも、ドキドキでなかなか眠れなかった。
朝、差し込む光で目を覚ますと、目の前にアレンの顔があった。
びっくりして心臓が跳ねる。
(いや、特に何もなかった。彼らにはこれが普通なんだ。)
でも、胸の奥がざわつく。
(緊張して汗かいた。私、臭ってないかな?)
リュミナは先にベッドを抜け、小部屋の鏡の前へ。
服を全て脱いで、汗を拭いたあと、ナノクリーナーを起動させる。
見た目には何も変わらないが、全身をナノマシンが駆け巡り、皮脂や埃、汚れを取り除く。
肌が滑らかに整い、眠っていた体がすっと軽くなる感覚。
シャワーがない状況でも、これで体を清潔に保てる。
その背後で、アレンが目を覚ましゆっくりと立ち上がった。
アレンは偶然それを目にしてしまった
「な!?……何やってるんだ……?!」
背中越しの動作に、思わず息を呑む。
リュミナは気づかず、服にもナノクリーナーをかけて洗濯する。
綺麗になった下着や服のシワを伸ばす。
その後、淡々と服を着たあと、
小型のカートリッジを腰のホルダーから取り出した。
「フレグラミスト、起動」
カチッという音と共に、手のひらサイズの装置が淡い光を放つ。
微細な粒子が空中に舞い、肌に触れた瞬間、
石鹸とフローラルを掛け合わせた清潔な香りがふわりと広がった。
これは帝国製の香気散布ユニット。
ナノ粒子が肌に定着し、程よい香りが身体を包む。
シャワーのない任務地でも、
「清潔感」と「香りの印象」を保つために、未開地調査にあたる帝国女性研究員に人気の一品だ。
リュミナは一度深呼吸し、
「うん、これでよし」と小さく呟いて、装置をホルダーに戻した。
アレンは慌てて布団に入って寝たふりをした。
彼女の一糸まとわぬ姿が脳裏に焼き付いて離れない。
心臓の音が聞こえてしまわないか心配だった。
きちんと服を着たリュミナが戻って来た。
慌てて目を覚ました振りをした。
「リュミナ、おはよう。」
「あ、アレン。おはよ。」
リュミナからは石鹸の清潔感と、フローラルないい香りが漂い、
アレンの心拍は高まった。
……いや、何でもない……いや……いや……
アレンの脳内は沸騰した。
身支度を終えたリュミナはベッドに座る。
「今日はどうする?」
アレンは視線を逸らしつつも、胸の高鳴りを抑えきれなかった。
「もっと稼ごう。」
ベッドが二つある部屋を借りられるくらいに。そう言いかけてアレンはやめた。
邪な気持ちがバレそうに思った。
夜はリュミナがドキドキし、朝はアレンがドキドキする――
安宿の小さな出来事が、二人の距離を静かに、しかし確実に縮めていった。
ちょっとドキドキするシーンですね。
アニメ化とかコミカライズするとエッチぃ奴です。
キラキラな謎光線で見えなくなる奴です。
見えなくて残念!
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