第3話 奇跡の剣
「なぁ、リュミナ。少しだけ気になっていたんだが……。
お前には猫耳があるけど」
「それが?なに?」
「まさかネコテイムが効いてないよな?」
「あ?私のこと……ネコと…思ってるの!?」
「……あ、ごめん、そういうつもりじゃなくて。
その……もし強制していたんだとしたらと思って……。」
「実は………。少し効い…てま…す。何なん……ですか…ね?そのギフト。」
「え?そうなのか?!ご、ごめん。
その、なんだ。
無理やりなのは本意じゃない。
意志と反するなら街で別れてもいいが。
いや、その……力を貸してほしいのは事実だけど。」
(……。ネコテイムはやっかいだけど、観察するなら現地人の傍にいた方がいいわよね。
それに本国に糾弾されてもネコテイムのせいにできるし。)
「いえ、強制……されてません。私の意志で……アレンを手伝い…たいです」
「そうか!ありがとう、リュミナ!」
”あのキスも強制じゃなかったのか?”
そう言いかけてアレンはやめた。
そんなことはどうでもいい。
彼女が俺を必要としてくれる間はこの子を守りたい。
アレンは初めて人に必要とされたことをもう少しだけ感じていたかった。
峡谷の奥は、魔獣の巣窟だった。
空気そのものが濁っている。
黒い霧のような魔力素が、岩の隙間から滲み出ていた。
だが、ここを抜けないと街に戻れない。
だが、そう易々(やすやす)と通り抜けさせてはくれないようだった。
アレンは荷物を地面に置いて剣を構えたが、すぐに腕が震えた。
戦える相手じゃない。
視界の先には、五体──いや、もっとだ。
甲殻と牙の塊。魔族が造った合成獣、デモンズ・ハウンド。
「……リュミナ、気をつけろ。こいつは固いぞ。」
そういうとリュミナを庇うように前に立った。
彼なりに虚勢を張っているのだろう。無理をしているのが声で伝わってきた。
リュミナが小さく息を呑む。
(干渉したくない。文明保護条約に反する。
でも……この人、放っておいたら死ぬかも)
彼女は腰のホルスターから、ブレードの柄を取り出した。
トリガーを押すとエネルギーが走り、光刃が展開する。
──レーザーブレード。
アルティオン粒子の凝縮体。この星で言う魔力素。
銀河文明級兵器。
「アレン。これを、使って」
「え? これ、光る……剣?」
「……護身用の、いや、えっと。
あの……“光剣”」
アレンは戸惑いながら、それを受け取った。
柄は軽いのに、手の中で脈打つように温かい。
青白い光が、空気を震わせている。
「……すげぇ。これが魔法剣か?」
「そ、そう。」
(魔力素が……濃すぎる。
エネルギーパックなしでも再充填してる……!
この惑星、アルティオン粒子が飽和してるのね)
リュミナは額に汗を浮かべながら、必死に状況を解析していた。
だがアレンは、ただその光に見惚れていた。
「これで……戦えるかもしれない!」
「アレン、待って! まだ…使い方を──」
だが彼は、もう走り出していた。
真正面から突っ込み、魔獣が一斉に飛びかかる。
アレンは滑り込んで敵の背後に回った。
そして彼の剣筋が光の軌跡を描いた。
「──はああああああああっ!!」
硬い甲殻を断つ音。
輝く光刃が、魔獣の体を一閃した。
切り口が光り、次の瞬間には溶けるように弾けた。
リュミナは息を呑む。
その動きは非戦闘員であるリュミナよりはるかに優れていた。
素早く動きながら敵の裏をかき、切り裂いていく。
(すご……全然、弱くないじゃん!?
……私が扱うより適正が高いよ、これ。
そりゃそうか、私と違って彼は戦闘の中で生きてきた。
ただ……自信がなかっただけなんだね。
多分、ギフトに頼らず人知れず努力してきた……きっとそう。)
アレンは止まらない。
動きが速い。今までの彼じゃない。
「行ける……俺、行けるぞ!」
手にした剣が、輝くたびに光が強くなる。
まるで意思を持つかのように。
敵の動きを先読みするように、剣が導く。
一体、二体、三体。
魔獣たちは次々と斬り伏せられていった。
リュミナは遠隔からレーザーガンを構えて、援護射撃を行う。
青白い光弾が空気を貫き、残った魔獣の脚を撃ち抜く。
「アレン、右……敵……来る!」
「了解!」
彼はそのまま飛び込み、光の刃を横に薙ぐ。
風圧で砂が舞い、視界が一瞬白くなる。
やがて、峡谷には静寂だけが残った。
燃え残る魔獣の残骸。
焦げた匂い。
レーザーブレードが淡く脈動を続けていた。
リュミナはアレンに歩み寄る。
「危ないっ!!」
急にアレンが叫んで、リュミナの元に駆け付けた。
驚いたリュミナが上空を見ると今までのデモンズ・ハウンドよりも一際大きな個体が上空から飛び掛かって来た。
「えぇ!?!」
リュミナが思わず頭を抱え、シールドを起動した後、座り込んだ。
その手前からアレンがジャンプして、レーザーブレードを大きく振りかぶった。
真っ二つになったデモンズ・ハウンドが左右に分かれてリュミナの傍に轟音と共に落ちる。
飛び散った体液は、パーソナルシールドに弾かれて四散した。
「大丈夫か!?」
(びっ、ビックリしたぁ!!?
まぁ、シールドがあるから絶対大丈夫だけどぉ!!!)
「おい、大丈夫か?!ケガはないか!!」
肩を握ってアレンが覗き込んできた。
「あ、大丈夫、平気。」
慌てて返事をすると、ホッとした顔でアレンが座り込んだ。
(アレン、私のこと心配して……。
あ!?私、助けてもらったのか……。)
「ありがとう……。アレン。ちょっと待って。」
少しだけ胸が高鳴ったのをごまかすように
彼の身体をスキャンし、損傷をチェックする。
(……すごい。心拍上昇してるけど、外傷ゼロ。
それに、ブレードが彼の神経信号と同期してる……?
まるで、適合者みたいに)
「なんか……この剣、俺に馴染むんだ。
まるで、生きてるみたいに……」
彼は笑った。
その笑顔に、リュミナの胸がまた跳ねる。
(やめて。心拍上がる。これ、命令の影響よ。
まったく迷惑なギフトだわ。)
「……ありがとう、リュミナ。
俺、今日初めて……自分の力で戦えた気がする」
彼女は視線を逸らした。
「べ、別に。……その剣は…、アレンに……預ける。
私………後ろ……から支援する……し」
「え、いいのか?」
「ええ。……それ、アレンの……方………が似合う」
彼女は小さく笑った。
その笑顔に、アレンは息を呑む。
風が吹き抜ける。
砂塵の中で、青い光がかすかに揺れていた。
(……私は干渉したくない。
けど、この人を見捨てるのは……もっと嫌な気がする)
リュミナはナノマシン治療ボックスを起動し、アレンの背に手をかざす。
温かな光が包み、微細な傷が癒えていく。
「回復……ありがとう。リュミナは、やっぱりすごいな」
「べ、別に。私はただの……研……アーク・ヴァンガード」
彼女はそっぽを向いた。
だが、その耳の先がほんのり赤い。
その時、遠く離れた崖の上では──、それを見つめる目があった。
そこでイグラートから逃げる《白銀の風》が休憩を取っていた。
メンバーの一人、鬼人戦士バルドが、監視を任されていたグレンに問いかけた。
「グレン、どうした?」
グレンは双眼鏡を下ろせなかった。
峡谷の向こう──
光の剣を振るう人影。
その動きは、見覚えがあった。
幼い時に彼と共に修業した――アレンの剣筋だ。
「まさか………アレン?どういうことだ?」
「アレン?アレンは今頃イグラートによって
フレッシュゴーレムにされてるだろうさ。」
「そっ、そうだよな。ありえないな!
俺の見間違いだ。あいつは死んだ。」
”俺が殺したんだ”……彼はそう言いかけて、胸に仕舞った。
そして平然とした声で続けた。
「誰だか知らんが、俺のギフトの”敵誘導”に巻き込まれた奴らがいる。
おかげで敵はあっちに集まってる。」
「お?そうか。なら今がチャンスだな。この隙に街に戻ろうぜ。
リーダーを呼んでくる。」
「いや、急ぐ必要はないんだ。
デモンズ・ハウンドの群れが数分で全滅したよ。」
「なんだって?Sランクパーティでもいたのか?」
「いや、二人組だが、実質一人が倒した。」
「ほぉ?Sランク冒険者か。まぁ、いい。これで安全に街に戻れるぞ。
荷物がないんだ。モタモタしてられない。すぐに発つぞ。」
「あぁ。」
そういうと《白銀の風》は街に向けて歩き出した。
「……いや、あれはアレンだった。嘘だろ?あの屑が?!
それともイグラートのせいか?
もう戦闘用フレッシュゴーレムにされたってか?」
渋い顔で考え込んでいたグレンだったが、置いていかれていることに気づいて慌てて走り出した。
「……おっと。待ってくれ!置いていかないでくれ。」
そんなことを知る由もなく。
アレンは再び荷物を担ぎ上げた。
そして、光の剣を見つめながら呟く。
「この剣が……俺の“奇跡”だ」
彼のギフト《ネコテイム》は、まだ何の意味も持たない。
だが、この瞬間から──
それは世界を変える“鍵”になろうとしていた。
実はアレンは努力家で剣技はそこそこ強かったんですよね!
ギフトっていうのが重視される社会なので、蔑まされてましたけど。
そんな彼が未来兵器レーザーブレードというチート武器をゲットです!
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