主従の関係、ヤツらの奸計 その1
眼鏡が壊れた。
体育のバレーボールの授業中、相手のサーブを受けようと眼前に手を構えてレシーブを華麗に決めるはずだった。どうしてそうなったのか自分でもわからないが、気づいたときにはボールが手をすり抜け、顔面を直撃。真ん中からきれいにフレームが折れた眼鏡と痛む僕の鼻っ柱をよそに、ボールはきれいにセッターの所へ行き、アタッカーへ繋がり、バシンッ!と我がチームのアタックが決まった。決勝点だ。
「ああっ、めんどくせー!」
ボールが当たって壊れた眼鏡はケースにしまっている。
調べてみたらフレームだけでなくレンズもおかしくなったらしく、テープで応急処置をするという選択もできない。おかげで授業の大半はまともに聞いていられない。昼休みになった今、午後の授業をさぼろうかと思い始めている。
「フケようかな」
思わず呟いたそのとき、後ろから肩を叩かれた。振り向くと都筑楓-おせっかいな奴だ-の顔が見える。
「これかけてみなよ」
そう都筑は言ってきて眼鏡を差し出してくる。都筑の眼鏡だ。都筑は眼鏡をかえたままでいるのを見る限り、今俺の目の前に出しているのは予備の眼鏡なんだろう。
「いいよ、何で俺が女物なんか…」
「しょうがないでしょ、代わりがないんだから」
「男としてのプライドが許さない」
「そんなのしょうもないもの、捨てちゃいなさいよ。授業、始まるよ」
結局つけてしまった。女物を。屈辱だ。周りの視線が突き刺さってくるような気がする。
都筑はいつもこうだ。俺のいやがることをいつもしてくる。とはいってもいつもは他愛のないお節介だからまだいいけど…いやいや、そんなことで今回のこれが許されるわけじゃない。
じゃあつけなきゃいいだろう、って? 俺もそう思う。だけど俺は都筑に逆らえないんだ。だって俺は都筑の「家来」なんだから。
放課後。授業が終わり、帰り支度をしていると都筑から声をかけられる。
「洋一」
「ん、何だよ」
「その眼鏡、新しいのが用意できるまで使っていいから」
「いいよ、いらねぇ。もう返したいくらいだし」
「でも返しちゃだめよ。これは今月分の「命令」だから」
「わかってるよ、そんなこと。わかってるから反抗したくなるんだ」
「何がそんなに気に食わないのよ〜? 洋一のユニセックスな顔立ちにぴったりだと思うんだけどなぁ」
「そういう風に言われるのも、お前が俺の「ご主人」だってことも気に食わないんだよ!」
俺たちの主従関係は前途多難だ。
初投稿です。
なんかものを書きたいなとつねづね思いつつ、実際に行動してみたことがなかったのでちょっと挑戦してみました。
突っ込みどころの多い短編小説ですが、今後気が向いたらまた別のものでも書こうと思います。