誰もが目を奪われてく⑦
リラ・ブランシェットに逃走劇をされ、私は犯人の特定という良いニュースと犯人を逃した悪いニュースを手に入れた。
犯人はブランシェット家の人間しか知らない情報を知っていた。
だから犯人はブランシェット家の誰かである。
リラ・ブランシェットはブランシェット家で唯一の生き残りだ。
よってリラ・ブランシェットが犯人である──といった具合で、名推理の出る幕などなくて、至って尋常の論理の道筋で、犯人は消去法的に、ごく当然に推察されたのだ。
私の出る幕すら全くないほどに、誰の目にも歴然たる結果である。
いや、もちろん推理に瑕疵はある。
全員の死体が目玉をくり抜かれているからと言って、つまり手口が同じだからって、必ずしも同一犯であるとは限らない。
だからブランシェット家の一大虐殺は、たった一人の犯行ではなくて、互いが互いを互い違いに殺し合う、家庭内デスゲームだった線もある。
とはいえ瑕疵があると言っても、犯人がブランシェット家の人間である、というのはたぶん当たっている気がする。
なぜなら致命傷たりうる傷が目しかない以上、そして目以外に目立った傷がない以上、目以外を攻撃しない、と言う縛りの状況下、犯人は六人もの暗殺のプロを殺していることになってくるからだ。
そんなことが唯一できるのは、同じく暗殺のプロフェッショナルでかつ、油断を誘える身内ぐらいのもの……他に犯人像は浮かばない程だ。
だから、他にも殺した奴がいるとして、リラ・ブランシェットが犯人でないなんてあり得ない……単独犯でなくても、生き残った時点で、マリナ・ブランシェットだけは絶対に殺している。
ところで、リラ・ブランシェットの行方が杳として知れず、捜査が行き詰まってしまったこともあり、私はいま国から送られた、捜査用の資料を改めて検めているところだ。
捜査方法のアプローチが、外に出て話を聞くという極まって原始的なそれであったから、いまからでも情報を顧みてみても良いと思ったのだ。
いや、コレは犯人が確定した今となっては、なんの意味もないことかもだけど、それでも何もしないではいられなかった。
しかし果たして、案の定というべきか、めぼしい情報はなかった。
やっぱり国側が把握してるのは、せいぜい全員の目がくり抜かれていることと、犯人がブランシェット家の誰かであることくらい。
それ以上は単なる水増しと言えた。
読んでも読んでも情報量がない。
しかしそこではたと、あることを思いついた。
国が把握してなくても、ブランシェット家の人間が把握していたことがあるかもしれない。
いま、ブランシェット邸は無人である。
だから聞く事はできないけど、行方をくらませた先を知るのにも、屋敷を調べるのは悪くない案だ。
そう思い立って、現在昼の五時。
私はブランシェット邸の門の前にいた。
「そう言えば、中に入るのは初めてになるのよね……」
マリナ・ブランシェットの死体を発見し、「まだ近くに犯人がいるかも」と、屋敷の方を調べようとした、そのときは唯一入りそうではあったけど、マリアに危険だからと止められたのだった。
「緊張するけど……行こう」
そして改めて門扉に手をかけた。
庭を経て、屋敷の中に闖入する(闖入とは中にいる者の許可を取らずに無断で入ってくることだが、そもそも中に人がいないのでは、取れる許可も取れようはずがない)。
まず正面にホールがあり、そこから左右に廊下が伸びていて、その廊下に面する形で部屋がそれぞれ存在するようだ。
まずは左の廊下の部屋の見る。
ホールに近い方から順に入って行き、部屋の中を見る。
基本的に生前のままのようであり、生活感溢れる様が見て取れた。
一応物色はするのだが、これと言って何かの手がかりになりそうなものはない。
そもそも行く先が分かる手がかりを、逃げた犯人が残すはずがない。
だからさもありなん、と左の廊下の部屋を見て行って、収穫がないことを淡々と確認した。
しかしこれでは何のために来たか分からない。
ただ死人のプライバシーを暴くだけじゃないか、と自分の行動に疑義を呈しつつ、私は右の廊下の部屋も検めた。
すると、右の廊下に面する部屋の一つ、真ん中にある部屋を見てみたら、何もなかった。
収穫が、ではない。
生活感が、だ。
何か物が散らかっているだとか、やりかけの何かとか、そういった生きてきた証という類が消えていた。
本当に何もかも、家具すら含めてすべて消えていた。
いや、元からこうなのかもしれないが、タンスすらないというのは少し異常だった。
各部屋一つはタンスがあったのに、ここにだけないと云うのは頂けない。
つまりここは、手がかりを与えないよう証拠という証拠をすべて消し去った、もぬけの殻となった犯人の部屋なのだ。
何が証拠になるか分からない、だから何もかも処分しておく──ドラスティックと言える対策はしかし、自分が犯人だと言っているようなものだ。
「だけど、少なくとも手がかりはないわけだ」
落胆しつつ部屋を退出し、私は次なる部屋を見て行った。
それで最後の部屋に入ったとき、机の上にある手紙を発見した。
手に取って読んでみる。
『ターゲットの出没が確認されている、サルサラ時計塔広場にカップルを装って、午後一時〜七時まで張っていましたが、ポツポツと数人が行き来するだけで、それらしい男は出てきませんでした。その日は作物の豊作を祝う祭りだったので、想像するにターゲットはきっと、花火が上がるのを眺めに行ったのか、家にいるかのいずれかかと思います。それと、任務中、六時半ごろ広場に家族を見かけたのですが、公然の秘密とはいえ一応言ってはならないことを──私から見て── 聞かれていた為に、
「言うのか」
と尋ねたら、
「言わないよ」
と、返答がありました。あまり関係はありませんけれど、あえて記さないのもおかしいと思い、付記しておきました。家族が殺されていることもあるので、疑わしいようなら、と。ルーイ・ブランシェット』
事件の謎が解けた。
※
いささか古めかしいようで恥ずかしくはあるが、戯れに例の文言を言いたいと思う。
【私は読者に挑戦する】
これまでの文章に謎を解くための全ての情報が配置されている。
賢明な読者諸君なら解けると信じているが、分からなくても真相を明かさないなんて卑怯な真似はしない。
だから安心して読み進めてほしい。
ささやかながら諸氏の健闘を祈る。




