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誰もが目を奪われてく⑥

 と。

 いう矛盾だらけの嘘八百、口八丁。

 推理とも言えないような推理を、信じさせてしまったなら申し訳ない。

 ブランシェット家に恨みを持つ実行犯たちを操りつつローグさんが同一犯による犯行の演出を施すって、いやだから犯人はブランシェット家の誰かだと言ってるだろ。

 ブランシェット家の外の人間が、推理に入り込む時点で一つも合ってない。

 それに、瞼の矛盾もある。

 同一犯による犯行と思わせたいのなら、何故三角に裂けていたり、破れてたり、無傷だったりとパターンが統一されていないんだ。

 同一犯の演出のために一貫して目玉を取っておいてそれか?

 行動が目的とあって無さすぎる。

 それに、目玉以外の目立った外傷がないのは何故なんだ。

 再三言うが外傷が一つなら、そこしか攻撃せず殺したということだ。

 プロの殺し屋を、目玉だけしか攻撃してはいけない縛りで殺すのか?

 そんなの不可能だろう、素人には。

 その他諸々の、さっきの推理を支えたのは想像だ。

 妄想と言ってもいい。


 もしローグさんが死体を見るだけでは満足できていなかったら。

 もしローグさんが暗殺一家の死体の、すべての第一発見者なら。

 もしローグさんが暗殺一家に殺意のある人たちと知り合いなら。

 

 仮定だらけで証拠がない。

 ハッキリ言って聞くに値しない。


「だが、警察は調査をしない……つまり、これが間違っていてもバレない」


 ダミーの推理が、実は必要な時が来ると思っている。

 具体的なことは言えないが、何か嫌な予感がする……、根拠はないのだが、どうしても不都合な真実に辿り着きそうで、このダミーの推理に頼らざるを得ない場面があるように思われてならない。

 無理にこしらえたので矛盾だらけだし、後付けで何とかそれらしく捏造をして推理の補強をしたとしても、やっぱり誤謬ごびゅうに悟られるかも知れないが、それでも必要に迫られたらやるしかない。


 国家が把握しているのはせいぜい全員の目が抉られていることと、家族以外行く先を口外するはずのない二人が死んでいること。


 情報量は圧倒的に少ないし、あちら側の持っている情報で私の推理を否定できるのは、家族以外に漏らしてないはずの、二人の行く先がバレているという、『じつは誰それに場所を漏らしていた』という嘘で、実に容易に崩れ去るものだ。


 そこはだから誤魔化しが効くし、他矛盾する点は報告しなければ良い。


 実際には六人の暗殺のプロを、目以外攻撃しないと言う縛りで殺している時点で、他の誰それに漏らしていたとして、まず間違いなく犯人は身内だが(プロを殺せると言う意味でも、油断を誘えると言う意味でも)。


 とにかくそんな予感が実現しないことを祈ろう。







 つぎなる情報を得るべくして、ブランシェット家の門前に待ち構えたのは、私と、マリナの二人組だった。

 例によって門から三メートル離れ、私もさらに三メートル後ろ。

 前にすぐ横にあった木の枝の葉っぱから一方的に覗ける開発をしたので、今回もそこに陣取ろうと思う。

 張り込み開始から、割とすぐの時間。

 門から女性の顔が現れた。

 見た感じマリナと背格好の近い、妙齢の女性という感じだった。

 何か言う前に、


「声を出すな。死にたくなかったら、ゆっくりこっちを向け」


 と、マリナが同じことを言った。


「反抗の意思を認めればすぐに殺すだけの用意がある。こちら武器のリーチは──三メートルだ」

「……」

「適宜質問には答えろ。では、質問を開始する」


 ()()()()()()、女性は睨んでいた。

 ルーイのときもまるで同様に、

 ルーイも、マリナの顔を睨んでいた。

 自分に脅しをかけている人間が、いつ隙を出すか伺うために。

 だから彼らは、マリナの顔をじっ、と睨むのだ。

 その顔を見て思う。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()──


「──名前を」

「マリナ・ブランシェット」


 その名前を聞いて、私は不思議な感慨に襲われた。

 私が友人の正体なのでは、と疑ってきた人が、全然違う人の形をとって目の前にいる……もうとっくに疑ってなかったけど、これでようやっと、猜疑の海から解放されるのだ──そう思うとなんだか嬉しくて、私は虚脱するような気分だった。


「貴女はバン・ブランシェットさんが亡くなった日の九時から十時の間にアリバイはありますか?」

「九時から九時半の間、ルーイと夕食を」

「なるほど、ルーイさんの証言と一致しますね。つまり、九時半から十時までに犯行が可能か、そこがアリバイの争点です」

「私はやってません」

「実はほぼそうだと思っていますけど、ギリギリアリバイがないんですよ、貴女」

「どうして」

「貴女が犯人なら、九時半から十時までにバンさんを殺さねばならず、つまりここから事件現場まで、三十分以内に着く必要がある。そして実際にここから現場まで、時間にして二十五分で着く。検証の際は全力ダッシュだったという注釈は付けねばなりませんけれど、素人の私でさえ五分の猶予です。貴女ならそれ以上の猶予もあり得るし、だから容疑はかかったままなんです」

「……」

「何か、他のアリバイはありますか」


 少し経ってマリナ・ブランシェットは、「そう言えば」と思い出したかのように言った。


「これは私のアリバイではないのだけど、リラを見かけたな。夕飯を食べている広間を経由して、「出掛けてくる」って九時十分に」

「いつ帰ったとかは」

「十一時くらいかな」

「どこに行ったとか」

「聞がなかったけど」


 九時にバンさんが屋敷の外に出て、九時十分にリラが外に出る。

 十時にはバンの死体が見つかって、十一時くらいに屋敷に帰宅する。


「確かめてみる余地があるみたいですね」


 前回同様に、この場をマリナに任せることにして、私は一足先にその場をあとにした。

 マリナの背中が、遠ざかるごとに小さくなっていく。

 その向こうに、マリナ・ブランシェットが彼女と対峙する。

 心配ではあるが、脅しが効いていたと言うことは、あっちにあの状況を打開する手段がないと言うことだ……。


 それならきっと大丈夫なはずである。







 さて、今回も帰宅がてらにアリバイ検証だ。

 と言ってもこれはほぼ成立しないので確定だと思う。

 マリナやルーイたちはダッシュとは言えど、二十五分で現場まで着いて、残り五分で殺害は可能だった。

 ルーイは死んだから候補から外すけど、なんにせよ二十五分あれば殺害できるのを、五十分は時間的猶予がある(リラが犯人の場合、犯行時間が九時十分〜十時だから)。

   

 さて実際の検証結果はと、ブランシェット邸から測定してみると、歩いて現場まで四十分程度。

 これなら行き帰りは八十分で済む。

 九時から家を出たバンさんが九時四十分に現場に到着したとして、その場でバンさんが十分いたら九時十分から四十分かけて来たリラが九時五十分に殺害が可能。

 つまり全力ダッシュであるという奇妙な仮定はせずアリバイのない人間が普通に出来上がる。


 別に馬とか使えばマリナ・ブランシェットのアリバイも余裕で崩せるじゃん(いや崩れてはいるが、全力ダッシュののち殺害って……)、と思ったけど、そもそもこの辺りは道が入り組んでいて、細く、曲がりくねっている。

 だから、どうやっても馬は通れないし、通れたにしても、かなりゆっくりの歩行になるはずだ。

 だからこの場合、人の足で移動している、という前提は崩れない。

 ゆえにこの事件、いずれも犯人の可能性はあるが、どちらが自然か言われれば俄然、リラの方だ。

 今後はリラに焦点を当てて、なるだけ真相に迫っていく。


 と、背後から声をかけられた。

 マリナだ(友人の方)。

 何やら息切れ気味である。

 しかも鬼気迫る様子だった。

 ……どうしたんだ。


「し、死体が……」

「!? まさか」


 もう殺されたのか!?


「そう──なんとか距離を取ったあとに、少し気になって屋敷に戻ったら、マリナ・ブランシェットが死んでいた!」







 急いでマリナの言う場所に引き返すと、門から少し離れた位置、茂みの中に死体が横たわっていた。

 足を引っ張って、死体を検める。

 案の定目玉はくり抜かれていた(右目が)。

 残っている方の瞳孔は散大し、絶命していることがはっきりとわかる。

 改まってみると、やっぱりマリナと背格好が近い。


「消去法的に」


 私が言った。


「残る一人、リラ・ブランシェットが事件の犯人だ」


 そう言うなり私は門に手をかける。


「待って、狭い空間で殺人者にあったら逃げられない。屋敷の中はわたしが確かめる。グランは外に逃げてないか見てきて!」

「マリナ──」

「お願い、危険な目に合わせたくないの!」

「──わかった」


 言われるまま私は屋敷周辺の人が潜みそうな場所を検めた。

 注意深く、かつ迅速に探したつもりだが、なかなか上手いようには見つからない。


「どこに行った──」


 私がいる場所まで呼びに行ったということは、死体を見てから時間が経っているということだ。

 もうすでにどこかに行っている可能性が、潜んでいるよりはよほど高いだろう。

 

 私は落ち着いて、少し冷静なって空を見上げる。

 黒い煙が空に上がっていた。

 

「!? 火事か──」


 黒煙はブランシェット邸の門あたりから、少しだけ離れた位置から伸びていた。


「──いや違う、死体が燃やされているんだ!」


 急いで引き返し、死体があって場所に急行する。


 死体の顔から火の手が上がっていた。


「──ッ!!」


 やはり燃えている。

 水は近くにない。

 近くには可燃性の植物が生い茂る。


「ああっ、もうっ!」


 湿り気のある土を、火の上に投げる。

 素手で掘ったから、かなり手が痛いが、いまはそんな泣き言を言ってられない。


 クソ、少し離れて死体が燃えたということは、犯人は近くにいたということだ。


 屋敷の周辺に犯人はいなかった──なら、屋敷の中に行ったマリナが危ない!


 とにかく急いで鎮火すると、死体の人相は完全に消えていた。

 もし生前の顔を見ていなかったら、誰の死体かも分からなくなっていた。

 哀れな黒焦げ死体に背を向けて、私は急いでマリナのもとに行く。


 すると顔に手を当てたマリナと行き合った。


「! そ、それ──」

「……やられちゃって」


 マリナの頬は殴られたらしく、手で抑えてる裏で流血があった。

 

「犯人は──あっちの方に、逃げた──」

「の野郎っ」


 犯人は私達が別れたあと、屋敷で見つかって、マリナの頬を殴り逃走。

 死体に火をつけて、ここから逃げていったというわけか。

 

「くそおおっ」


 私はかなり遠くまで追いかけたが、犯人の影すら踏むことはなかった。

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