表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/23

誰もが目を奪われてく③

 手紙を受け取った翌日の午後、私はブランシェット邸に行くことに決めた。

 場所はエルメ様から教えて頂いた。

 距離はそれなりにあったものの、これといって労なく家は見つけられた。

 黒い──家だった。

 周囲は森と、高い塀でぐるっと囲われて、建物の威容を盛り立てているようだ。

 一帯に人はいない。

 森閑とした雰囲気にあたりは満ちている。

 やがて意を決し、門に手をかけようとしたときに、


「あれ? グランじゃん」


 と、声がかけられた。

 首を巡らせて、背後を顧みる。

 私の後ろに立っていたのはマリナのようだった。


「どうしたの? こんなところで」


 瞬間、息ができなくなる。

 

 私はマリナをマリナ・ブランシェットではないかと疑っている。

 マリナという名前、家業が隠密に長けていることや、()()()()()()()()口パクが、『()()()()()』と文字数が同じだという点は、マリナとマリナ・ブランシェットとを強く結びつけ、二人の同一人物説を浮かばせた。

 しかし一方でそんなわけはないと、

 私はその説を取り合わないでいた。

 予断は許されないと取り下げた。

 のに──ここにいるマリナは、友人は!

 ブランシェット邸の門扉のすぐそばに、実に当たり前のような顔をして立っていた!

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()とでも言うように、自分が暗殺一家であることをてんとして気にせずに、無辜むこに笑っているようですらあった!

 こんな偶然──今度こそあり得ない。

 マリナがブランシェット邸にいたということは、マリナ・ブランシェットであるという証明だ。


 足元にある地面が崩れ落ち、立っていられない感覚に陥った。


「おーい? 聞いてるー?」

「え……ああ、な、なんだっけ?」

「だから、こんなところでどうしたのって」

「ああ……ええっ、とね……それは……」


 ちょっと、大丈夫? とマリナは気遣った。


「ああ、いや、ここにはね」私は覚悟を決めた。「調査に来てたのよ。最近話題になってるでしょ? 死体に目がない殺人が」

「ああ──なるほど」


 まだ何も核心的なことに触れないか。


「ここの家、ブランシェット家が殺人のターゲットになってるっぽくて、だから事情を聞きに来てみたの」

「へえ、そうなんだ」


 とぼけている……?

 いや、本当に違うのかもしれない。

 根拠は元々かなり薄弱だ。

 直感は同一人物であると言っているが、とても論理的とは言い難い飛躍だった。

 ならば、あるいは、本当に違うのか……?


「ところで、ブランシェット家にはマリナ・ブランシェットという末の娘がいるそうなんだけど、貴女と同じ名前よね。貴女は──マリナは、マリナ・ブランシェット、だったりするかしら?」


 私はついに、核心に踏み込んだ。

 マリナの顔を見る。

 マリナ──いまのところマリナ・ブランシェットではない──は、これといって表情を変質させなかった。

 彼女は変なものを見つめるような目で、首を小傾げて次にこう言った。


「……違うけど? 誰それ、そういう人がいるの?」

 






 マリナの返答を聞いたその途端、私はブランシェット亭の周囲を囲んでる、高い塀に身を寄せてしなだれた。

 良かった──マリナは『ヒトゴロシ』じゃない。

 

「ち、ちょっと、どうしたの!?」


 心配そうにこちらへ駆け寄って、私の顔を覗き込んでくるマリナ。

 その顔を見て一層こう思う。

 マリナが無関係でよかった──、と。

 マリナがマリナ・ブランシェットだったなら、現在ブランシェット家にかかっている連続殺人の容疑が彼女にまで及ぶところだった。

 もしそんなことになって、あまつさえ本当に犯人だったなら、私はマリナを『処分』に追い込むことになっていた。

 これでようやっと一安心できる。

 私は友人を殺さずに済んだのだ。


 私はブランシェット邸の塀に手をついて立ち上がり、


「あのね……、こういうことがあったの」


 と、いままで抱いていた疑いと諸事情を、正直に全部マリナに告白した。


「だから、マリナを殺してしまうのではないかって、私は──私、は」

「大丈夫、大丈夫だから」

「安心──した。よかった。ま、まだマリナと、友達でいれる、わ」

「心配しなくても、ずっと友達だって」


 割合意外だった。

 自分ってのはこんなに涙脆いのか。

 世の中に期待したことがなかったから、期待を裏切られる恐ろしさを知らずにいたわけか。

 そして、それが杞憂に終わることの安堵さえ。

 そうか──マリナとは、友達でいれるんだ。

 そう思うと再び、私の涙はどっ、と溢れ出た。


「それよりも、ほら、ブランシェット邸に事情聴取に行くのだっけ?」

「う、うん。そうなの。犯人の候補を絞るために、必要で」

「つまりあなたたちは犯人ではないですか? って疑いに行くわけか。……いささか危険だなあ」

「でも、やらなくちゃ」

「どうしてもなんだ?」


 私はうん、と首を縦に振った。


「よし、それならさ。一つだけわたしに手伝わせて欲しいんだけど」


 それは以下のような内容だった。


 相手は暗殺集団である。

 怒らせたらどうなるか分からない。

 なので、私の安全を確保させて欲しい、と。


「安全を確保って……全体どうやって」

「わたしのこの武器、リーチ長いんだ」

「その星型の跡が残るやつだっけ?」

「そうそう、先端の金属が刺さると傷痕が、ちょうど星のような形になるっていう。で、この武器なんだけど」


 手首でくい、とわずかに動かして、持ち手から連なる鎖の音が鳴る。


「この鎖が、まあ三メートルくらいはあるわけよ」

「長いね」

「そう、たいていの武器のリーチよりもいくらかは」

「それがどうしたの?」

「相手は暗殺者だ。武器を常に携帯していておかしくない。見た目には武器を持っていなくても、暗器──忍ばせておく武器だね──を身体に隠していないとも限らない」

「なるほど」

「だから、その手合いの武器を警戒するために、仮に攻撃に踏み切られたとしても、相手のリーチより外から、一方的に攻撃できる状況を作りたい」

「なるほど、つまりマリナが彼らと対峙して、自分の武器のリーチは届くけど、相手からは届かない間合いを形成し、私にはそのいずれのリーチからも外れた安全圏にいて欲しいと言いたいのね」

「そういうこと」


 そういうことなら、願ってもない話。

 私が自分から頼みたいくらいだった。


「ちなみに、私はどこにいればいい?」

「わたしの後ろかなあ。前にいたら武器に巻き込むし」

「マリナの三メートルほど後ろに控えてるわ」

「そうだね、会話は声を張ってやって頂戴ね」


 マリナの武器のリーチが三メートル。

 つまり相手から最大三メートル分離れるということで、その後ろに私がさらに三メートル。


「相手のあいだに発生する距離は、合計六メートルになるというわけか」と、私。

「安全の確保となると、そうなってくるのかな」

「ところで、それってどうやってやるの?」

「? どうやるのかって?」

「だってそれって、1:1が条件でしょ? いまからブランシェット邸に入ってって、その状況に持ち込めるかは微妙だわ」

 マリナは得意げな顔で、「待っておくんだよ」

「一人で出てくるのを? なるほどそれはいい。なんと言っても、ここは門前だ。家の外に出てくる人間は、必ずここを通って出るはずね」

「そう……だから相手を門前で待ち構え、塀で身を隠し、門から一人で出てくる人間を、『止まれ、この武器の餌になりたくなかったら』など脅す」

「相手からはコチラは塀で見えないし、実際に門を開けて声をかけられるまで、相手にコチラを警戒する術はない」

「そして、門からは三メートル離れてればいいわけか。良い案ね。この作戦なら、相手と私らが会った瞬間に、自動的にリーチを確保した間隔で、事情聴取を申し入れられる」


 ハメ殺しのような恰好になるわけだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ