変身
一瞬の出来事だった。こまちが瞬きをした時には髙橋はバイクのサドルにはおらず、状況を飲み込めないまま次の瞬きの後には髙橋はサドルに戻っていた。
ただし、瞬きの前と後では何だか消耗しているように見えた。
「佐々木くん、今何が起きたんだろう?」
少し戸惑った様子でこまちは隣の佐々木に話しかけた。
「佐々木くん?」
反応のない佐々木に対して不安になり顔を覗き込むと、佐々木の額には玉の汗が浮かんでいた。顔もいくらか血の気がない。
「佐々木くん!どうしたの?大丈夫?」
「こまち、そっとしといてやれ。今多分そんな余裕ないぜ」
タマは何か事情を知っているような口ぶりだ。
「タマ、佐々木くんに一体何があったの?」
タマは少し考え込んでから答えた。
「俺にもよくわからないが、恐らく髙橋の変身と関係があるかもしれない」
こまちはわけが分からず、「変身って?」とタマに尋ねた。
タマは本当は全部見えていたが、敢えて知らないフリをした。タマ自身驚きで動揺していた。「変身」はタマたち含め獣や昆虫の特殊な力だが、あれだけの力は始めて目撃した。一瞬髙橋の力に驚愕したが、佐々木の消耗具合から佐々木の力が関係しているのではないかと察した。
「あれじゃ、相手は無事じゃねえな」
「タマ?」
こまちの呼びかけにはっとしたタマは、
「ああ、変身は俺たちも出来るんだ。あんまり人には見られたくない姿だからな、きっと髙橋も急いで解いたんだよ」
こまちは頭がついていかないが、とにかく頷いておいた。
それより、スズメバチはどこまで飛んでいったんだ。山二ツ分は飛んでいってたぞ、しかもありゃあ、相手がー
タマはスズメバチの事が気になった。
「髙橋、大丈夫か?」
「ああ、すまん、ちょっとどこかで休みたい」
高橋の消耗も目に余るものがあった。恐らくあれだけの力を出したのは初めてのはずだ。普通なら持たない。
三人は一先ず近くで休むことにした。
先は長いのだ。