急襲
金澤のアドバイス通り、佐々木とこまち、タマを乗せたバイクは国道を走っていた。
「高橋、スズメバチってなんだ?」
タマはヒゲをひくひくさせながら前方を睨みつけたまま尋ねた。
「掃除屋だ。主に俺たちみたいな邪魔者を消して回っている。目的は不明。誰かに指示されているのか、自分たちの意志なのかそれすらも分からない」
「物騒だな」
「ああ」
高橋は短く答えた。
「佐々木くん、こまちちゃん、シートの下に防弾チョッキがある。今のうちにそれを着てくれ」
「おいおい、なんだってまたそんなこと、子どもたちもびっくりしちまうだろう!」
高橋はちらっと二人の顔を見やる。
「現実は生きるか死ぬか、どれだけ守るといっても限界がある。死んでからじゃ後悔しても遅い。だから、出来ることはしたい」
高橋は正直に答えた。自分がどれだけ力を持っていようと、手の届く範囲に限界があることは知っているのだ。
「高橋さんの言う通りだと思う。僕たちは大丈夫」
こまちも頷く。
「たくましいね」
タマはため息をついた。
「で、お前たちは何者なんだ?さっき、スズメバチの話で『俺たちみたいなのを消して回ってる』っていってたろ」
高橋は少し考え込むように無言になった。
「正義の味方」
「何言ってんだお前」
タマは呆れた声を出した。
「そのままの意味だ。正義の味方。ただそれだけだ」
タマはやれやれと目を細めた。
「正義なんて誰だって語れちまうから恐いよな」
タマは少し皮肉っぽく答えた。それに対して高橋は特に何も言わなかった。
「ところで、大通り通っていれば安全なんだよな?」
「いや、そうとも言えない」
「どういうことだ?」
急にピリッとした雰囲気が流れたかと思うと高橋が言った。
「二人とも頭下げて、しっかり掴まっているんだ。何があっても頭を上げないでくれ」
高橋はボタンを押すとサイドカーに蓋がされた。
「タマ、二人を頼んだよ!」
「おいおい、いきなりかよ…!」
タマはいよいよ焦った声を出した。
「飛ばすぞ」
高橋はアクセルを上げた。
高橋は感じていた。後方約1キロ程度後ろから追いかけてくる気配を。追いつかれる前になるべく進まないと、国道で暴れられたらひとたまりもない。多くの人が命を落とす可能性が大きい。もはや隠す気のない殺気が高橋の背中目掛けて突き刺さってくる。恐らくあえて殺気を隠す気がないのだろう。この追いかけっこ自体奴は楽しんでいる。なるほど、随分舐められたものだな、と高橋はつぶやく。
次の瞬間、サイドカーの真後ろのアスファルトに何かが弾けた。続いて2度、何かがアスファルトに当たった。
「なんだぁ?」
タマはサイドカーの蓋越しに後方を確かめる。次の瞬間、タマの目の前の蓋に衝撃が走る。
バスン!
タマは驚いて悲鳴をあげた。
「おいおい!撃ってきてんじゃねえか!」
高橋は構わずスピードを上げた。周囲の運転手が不思議そうにこちらに視線を向けている。
あと500メートル、ここを抜けると約3キロ程直線の田んぼ道が続く。あいつの大好きな直線だ。勝負をつけよう。
国道を抜ける直前、黄色信号を一気に駆け抜けた。
高橋は束の間両手をハンドルから離し、2、3度深く深呼吸をした。
「何してんだあいつ」
タマと佐々木、こまちの3人は窓越しに高橋の様子を見る。
佐々木は身体の中を何かが駆け巡るのを感じた。
最後に深く息を吸い込んだ高橋はぎゅっとハンドルを握り直した。空気が一瞬凪いだ。
「変身」