闘争、その二。
気づくと誰かが佐々木とこまちを抱えていた。何が起きたか頭を整理するのに時間がかかった。
こまちは自分の家を見てどういうことか分からなくなっていた。自分たちのいたリビングがぎっしりと何か白いものに埋め尽くされている。それは部屋いっぱいにぎゅうぎゅうになりさらにどんどん増えているようだった。
砂?
次の瞬間、内側からの圧力に耐えられなくなり窓ガラスが割れ、中身が外に溢れ出した。
米だ。
つやつやとそれは美しい米だった。一体どういうこと?
「こまち」
隣の佐々木を見た。
「あの伊藤って人何者?」
伊藤―
両親の話だと二人の親友で、こまちが赤ん坊の頃はよく可愛がってくれたと言うけれど…それに私たちさっきまであのリビングにいたはずなのに一体いつの間に外に、それに…
「わからない、私も初めて会ったの…ところで、佐々木くん、この人は?」
二人は自分たちを抱えたまま立ち尽くす男を見上げた。髪は少し長めで、顔は精悍で整っている。浅黒い肌に首には赤いスカーフを巻いている。
男はそっと二人を降ろすと二人の目線までしゃがんで挨拶をした。
「はじめまして。高橋と言います。貴方がたを守るように言われてきました」
守る?
「どういうことですか?」
「今は説明している時間はありません。これを被って」
高橋と名乗る男は二人にヘルメットを渡す。
「この数はちょっと相手に出来るか分からないので少し逃げますよ」
そういったところで自分たちが囲まれていることに気づいた。
スーツ姿の男達がざっと20人くらいいる。手には軍隊で使うような鋭利で丈夫そうなナイフを握っている。
「やれやれ、そう簡単にはいきませんか。二人とも、僕のバイクの影にいてください」
そう言うと高橋は深呼吸をした。
不意に高橋を取り囲んでいた男たちが動いた。高橋は息を吐くと同時に前方の男の胴体にパンチを入れる。すると殴られた男は仲間に向かって飛んでいく。仲間を受け止めたことで一瞬タイムラグが生まれる。続けざまに後ろから来た男の首を掴んで地面に叩きつける。そこからは徒手格闘、何をしているのか分からないが、敵のナイフをすんでのところで交わし、逆にその伸びた腕を内側から返し相手の手から刃物が落ちる。肘や拳でカウンターを繰り返しあっという間に半分くらいを制圧した。気づくと残り二人になり、背後の男が拳銃を抜いた。
「危ない!」
二人が叫ぶと同時に男は発砲した。
メキッ!
耳慣れない音がしたかと思うと、弾丸をしゃがんでかわした高橋が下から男の肘を蹴り上げた。
男の腕は肘の内側から折れた骨が突き破り、男はその場にうずくまった。正面の男は仲間の銃弾が肩に当たり倒れていた。
「もう終わっちまったか」
声のする方を向くと、サングラスをかけた男が立っていた。
「さすが高橋くん」
「金澤」