開戦
遠くで誰かの声がする。
「タマ助、あんたあたしと闘うの初めてだって気づいてた?」
ああ、そうだったっけ・・・もっと、たくさん、遊んだ気がしたんだけどな・・・お前とは、初めてか・・・。眠い…眠い…
「タマ」
もう、今日はたくさん走ったしな・・・
「タマ」
だから、今日は、もう、こまちの膝の上で
「タマ」
目を開けると佐々木がいた。
「タマ!大丈夫?」
あ、ええと・・・あれ・・・?俺は何してるんだ?声が出ない・・・佐々木・・・?
「タマ、こまちを守って」
「はっ・・・はっ・・・は、ぁかっ・・・」
気づくとタマは砂浜に立っていた。眼の前には驚いた表情の桃姫がいた。
「タマ助?」
桃姫は異変に気づいた。おかしい、切った感覚があったのだ。切り捨てた腕や下半身も消えている。一体何をした?桃姫は動揺した。
「1000年・・・」
「・・・?」
「1000年ぶりだからな・・・・力、使うの。加減はできないぜ、桃・・・」
桃姫の斬撃が発動するまでわずか0.1秒。タマの妖力の解放の方がはるかに早かった。
「遅いぜ、桃」
耳元でタマの声がしたと思うと桃姫は右腕ごと取られていた。
「こまちは返してもらう」
失った右腕を見つめタマに向き直る。
「ふぅん。そっちを取るんだ」
桃姫の右腕は再生し、その両の目はタマを恨めしそうに睨んでいる。
「本気でこい。俺も本気でやる」
「勝てるの?」
「さあ?けど、どうせ死ぬなら、本気の桃に殺されたい」
「・・・!」
桃姫は驚きと嬉しさが入り混じったようなはにかんだ顔をして言った。
「やっぱりあたしのタマ助だ。あたしの初恋、ちゃんと受け止めてね」
そういうと桃姫は纏っていた十二単を一枚ずつ脱ぎだした。一枚、また一枚と砂浜にしゅるしゅると脱げ落ちる度に重そうな音がして砂埃が舞う。桃姫の纏う十二単は一枚一枚に業が籠もっており、妖力のある者であれば死ぬことはないが肉体的、精神的リスクを負う。普通の人間が触れれば即死。唯一これに触れることが出来るとすれば、仙人と呼ばれる聖域に力の達した者。彼らには重さで感じるようになっている。その聖域に達した者の感じる重さに換算すると一枚500キロ。もはや人知を超えた力とはこのことである。
すべて脱ぎ終えた小袖姿の桃姫の腰には刀がある。
「懐かしいな。その姿こそ桃だ・・・」
少し悲しそうな表情のタマに向かって照れたように笑う桃姫は、ただの恋する乙女のようだった。
「その刀に斬られるなら、俺も本望だ」
「苦しまないように斬ってあげる」
二人の姿が消えた。




